日本の交通インフラをアップデート。LUUPの岡井大輝が掲げる「街じゅう駅前化」とは?
新世代の移動手段として注目を集めている電動キックボード。昨今では、颯爽と街を駆け抜けていく電動キックボードに乗った人の姿を見かける機会も増えました。この電動キックボードをはじめとする「電動マイクロモビリティ」の開発を行い、そしてそれをシェアリングするサービス「LUUP」を運営しているのが、2018年に設立された株式会社Luupです。
新たな交通インフラを創ることで日本の社会はどう変わるのか、新しい価値観を生み出すにあたって苦労したこと、そして今後の展望について、代表取締役社長兼CEOの岡井大輝さんに伺いました。
世界に遅れをとっている日本の交通インフラ
日本の交通インフラと聞いて、最初に思い浮かぶ電車。たくさんの人が利用する通勤手段であり、レジャーの際にも電車を利用する人は多いはず。しかし、電車が便利すぎるゆえに、日本の交通インフラは長年大きくアップデートされておらず、世界との差は開く一方だと岡井さん。こうした背景が「LUUP」誕生のきっかけに。
「山手線が開通したのは1903年ですが、僕たちの通勤の形は数十年変わっていません。ほかにも、自動運転の法整備も海外よりも遅れていたり。今後、交通インフラのアップデートが遅れていることによる社会課題はより深刻化すると考えています」
ところが、電動キックボードをはじめとする電動マイクロモビリティは、アメリカはもちろん、ドイツやフランスなどのヨーロッパで、街じゅうでシェアリングサービスがすでに展開されているそう。
「実は、電動キックボードが普及していない先進国は、日本とイギリスだけなんです。ただ、イギリスでは規制緩和に向けた実証開始のニュースが2020年1月に出ました。つまり、事実上残るは日本だけになってしまいました」
日本の交通インフラの遅れは、都市部と地方部で異なる深刻な課題を生み出しているとも。
「まずは都市部。たとえば、『駅から徒歩20分』みたいな場所は、正直不便です。しかし、実際問題として住宅地の多くは駅から離れた場所にあります。駅前に全てがあって、駅から離れると何もない……。この感覚に僕たち日本人は慣れすぎています。だから今後は‟駅からその先“への移動手段が必要だと考えています。
さらに、地方部における深刻な課題の一つは、高齢者のアシがないことです。地方では、近くのコンビニといえど1kmや2km離れているので普通は車で移動します。歩くと30分かかる距離も、車ならたった5分です。ところが、高齢者になるとさまざまな事情で車に乗れなくなることがあります。電動シニアカーは値段が高価ですし、家に置くところがない。また、最大時速が6kmなので、車の代わりにはなりえません」
この日本全体の短距離移動の交通インフラ不足を解消するために、「電動マイクロモビリティ」で「街じゅうが駅前」になる未来を作りたい。こうした思いを抱いた岡井さんは、電動マイクロモビリティのシェアリングサービス「LUUP」の立ち上げに尽力していきます。
‟新しいインフラ”が人口減少時代のサービス普及のカギ
電動マイクロモビリティに着目する前は、介護士版Uber事業を手掛けていた岡井さん。介護士版Uberを始めたのは、ご自身の経験がもとになったそう。
「祖母が認知症だったのですが、肉体的には大きな問題はなく、歩いて移動することができる状態でした。深夜に火を使って料理をしたり、徘徊してしまうなど、しっかりとした介護が必要にも関わらず、本人は立ち上がれるので要介護認定で重症の扱いにならない。つまり、国から受けることができる介護サービスの種類や頻度が制限されていたんです。
もちろん、高齢化社会において、国が提供する保障に限度があるのは当然のこと。この国だけではカバーしきれない部分の解決策を自分たちで提供するべく、介護士版Uber事業を立ち上げました」
しかし、介護版Uberは早期に撤退。断念した理由は、駅やバス起点の商圏内ではマッチングが十分に行えなかったことだと言います。
「日本のいまの交通の仕組みでは、人が人の元に行く事業は成り立たないと判明したからです。ですが、このきっかけが今の電動マイクロモビリティ事業のヒントになりました。今後さらに加速するであろう人口減少時代では、CtoCのマッチングサービスや配達系サービスの増加が見込まれています。それらのサービス普及のカギは、日本の交通における課題を解決する新たな交通インフラの確立です。僕たちはそのようなインフラを構築したいと思い、電動マイクロモビリティのシェアリングにたどり着きました」
安全性への努力は怠らない
そして、2020年には渋谷を中心とした6区(渋谷区、目黒区、世田谷区、港区、新宿区、品川区)に小型電動アシスト自転車のシェアリングサービス「LUUP」をスタート。設立当初から独自に電動キックボードを開発していた岡井さんのもとに、「電動キックボードのシェアサービスを使いたい」「LUUPの電動キックボードを使いたい」という声が、次々と届くようになりました。
株式会社Luupが提供する電動サイクルや電動キックボード。他社が提供している既存のシェアサイクルとの大きな違いこそが、街中にポートを急増させている秘密のよう。
「僕たちが提供する電動マイクロモビリティは機体が小さいため、圧倒的な密度でポートを設置できるんです。既存のシェアサイクルなどと比較して、より小さいスペースに多くのモビリティを配置することが可能になりました。その結果、これまでポートを設置できなかった、いわば街の‟スキマ”の活用が可能になり、高密度なポート設置を実現しています」
現在、キックボードタイプや四輪タイプなど、高齢者にも利用してもらう前提で複数の機体を開発中の株式会社Luup。数年後には「電動・小型・一人乗り」のユニバーサルな一つの機体に集約したいと岡井さん。
「電動・小型・一人乗りにこだわる理由はたくさんあります。まず、電動にできなければ、逆走防止や危険感知による自動の速度低減といった安全を守る機能が付けられません。人力で走行するということは、安全制御は運転手のみに全て任せられるからです。
また、小型でなければ都市部に多く配置することが難しくなりますし、地方の場合でも細かい路地に入れないと使いにくくなります。さらに一人乗りにこだわるのは、効率的な問題があります。というのも、今後は人口の3分の1が高齢者になると言われていて、運転手をつけて誰かを運ぶという手段だけでは効率が悪くなると思うので」
「LUUP」のリリースによって、電動モビリティの認知が上がった昨今。今後、さらに日本で普及するにあたって必要なものは何なのでしょうか。
「日本での電動モビリティの社会実装のために必要なことは、まずは機体・サービスの安全性の検証です。株式会社Luupは地方自治体や大学などと協力し、直近半年間で全国30カ所において実証実験を実施してきました。
実証実験では、日本各地の実証場所に僕らが開発した機体を持っていきます。地元の関係者の方々に機体の性能を説明したうえで、ご高齢者、障がいのある方、若者といったさまざまな方々に機体に乗っていただき、そこでダメ出しをもらっては改良の繰り返し。結果、電動キックボードの機体だけでも、すでに9回のバージョンアップを重ねてきました」
また、安全性のほかにも課題が残されているそう。電動キックボードは原動機付自転車、原付に該当するので、機体はその基準を満たさなければならないのです。
「現在実施している実証実験では、特例措置のもと小型特殊自動車として行っていますが、本来は原付扱いなんです。原付の保安基準を満たし、原付の走行ルールに従う必要があります。たとえばバックミラー、ナンバー、ヘルメット着用、免許帯同、車道走行……。この基準を満たすのが難しいのです」
業界全体の安全性向上を目指し、「マイクロモビリティ推進協議会」を設立した岡井さん。自主規制体制の構築や安全運転指導の基本方針の決定、実証実験・事業の推進、政策提言など、幅広く活動されています。
「協議会に参加する企業は、言わば競合企業です。それでも建設的な議論をしながら業界を進めていけるのは、たとえ競合であっても業界として協力をして、日本に安全なインフラをつくりたいという参画事業者の目標が一致しているためです。関係省庁ともしっかり議論を重ねていく中で日々感じるのは、『なんとか規制緩和させよう』という考えではなく、『悲しい事故を起こしたくない』という各社の思いに尽きます。
株式会社Luup以外にも各地での実験が進んできています。現在、国内で自治体との連携協定を締結できているのは当社のみですが、今後はほかの企業も同様の動きをとっていくと思います」
「街じゅう駅前化」を目指して
鉄道網が大きな血管だとすれば、電動マイクロモビリティでの移動は駅から先の毛細血管のようなもの。そう語る岡井さんの最終目標は、‟街じゅうが駅前化”するインフラをつくること。
「長期的には街じゅうを駅前化するインフルをつくることがミッションですが、まず目下は2023年までにLUUPのモビリティを全国に展開することと、小型アシスト自転車と電動キックボードに加え、3〜4輪の高齢者の方にも対応した新しいモビリティを導入開始していきたいです」
急成長を続ける株式会社Luupの代表取締役兼CEOとして、岡井さんには必ず守っている信条があります。
「常にミッションファーストであることです。ミッションとは‟街中を駅前化するインフラをつくること“。自分の成長や成功よりも、ミッションが最優先です」
ブレない信条とともに「街じゅう駅前化」を推し進める岡井さん。LUUPが新たなインフラになるには、とある条件があるそう。
「LUUPの利用者に対して、永続的に『安心』と『利便性』を提供する責任があることは当然だと考えています。しかし、利用者以外にも『ポートを貸してくれる街の方』、常に街の安全と経済を考えている『自治体の方』『エリアマネジメント関係者』『町内会の方』『地元警察の方』、そして『その街で生活をされている歩行者や運転手の方』など、大きな責任があります。僕たちのミッションに協力してくださる街のみなさま全員から『LUUPはこの街のためにあった方が良い』と思ってもらえることこそ、街のインフラになる条件だと思っています」
岡井大輝(おかい だいき)
LUUP:https://luup.sc
取材・文/おかねチップス編集部
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