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姉妹共同代表から1人代表へ。b-monsterの塚田眞琴が、コロナ禍でも1人になっても“挑戦”を諦めない理由

姉妹共同代表から1人代表へ。b-monsterの塚田眞琴が、コロナ禍でも1人になっても“挑戦”を諦めない理由

暗闇の中でボクシングを楽しむフィットネスジム「b-monster」を国内外で12店舗展開する「b-monster株式会社」代表取締役の塚田眞琴さん。大学中退後の2016年3月、21歳のときに姉の美樹さんと同社を設立しました。

今年5月には、渋谷にバーチャルトレーナーのフィットネスジム「TOY VOX」、昆虫食をメインに提供するサステナブルカフェレストラン「EAT for E」をオープンし、さらなる躍進を遂げています。そして6月には、美樹さんが同社を離れ、1人代表となることを発表。失敗を恐れずに事業を次々と展開し、1人代表として新たな経営者の道を突き進む塚田さんに、“挑戦心”の源を伺いしました。

恵まれた環境で育ちながらも、満たされなかった幼少期

経営者の両親を持つからこその、苦悩を吐露してくれた

暗闇ボクシング「b-monster」にはじまり、オンラインフィットネスアプリ「buddies」、バーチャルトレーナーのフィットネスジム「TOY VOX」、昆虫食のレストラン「EAT for E」と、現在では4ブランドを展開する塚田眞琴さん。両親が経営者ということもあり、幼いころからビジネスは身近であったものの、自分が経営者になることは頭にもなかったと言います。

絶対に経営者にはなりたくなかったですね(笑)。体を壊してまで働く両親を目の当たりにしていたし、自分たちの範疇を超えるような仕事をしていることも知っていたので。だけど、両親は私を経営者にさせたかったみたいで、小さいころから経営者のマインドは埋め込まれていたように思います。

たとえば、時給1,000円のバイトを始めると、『あなたの価値は、1時間1,000円ってことでいいの?』『自分の時間を費やしてまで、そのバイトする価値あるの?』なんて詰められて(苦笑)。『社会勉強にもなるし、それは1,000円以上の価値がある』と突っぱねて、バイトには行っていましたけど」

敏腕経営者の両親のもとでの裕福な暮らし――。一見、何不自由ない環境で育ったように思えますが、「親ではなく、自分を認めてほしい」という経営者の両親を持つからこその悩みや戸惑いが、塚田さんを経営者の道にいざないます。

「両親と買い物や食事に行くと、お店の人が私にもやさしくしてくれるんです。だけど、なんかこう、私を介して両親を見ているように感じて……。経営者の子どもだからやさしくしてもらえるだけで、決して私自身を見てくれているわけじゃない。そう幼心にもわかったんですよね。そんなこともあって、『どうしたら人に振り向いてもらえるのか』という思いを小さいころからずっと抱いていました」

「親の七光り」という批判も。救いになったのは利用者からの声

b-monsterの第1号店の銀座スタジオ

経営者になるとは夢にも思っていなかったにも関わらず、塚田さんは姉の美樹さんとb-monsterの設立を決意します。当時は、なんと21歳の大学生。そのきっかけは、ダイエットのために美樹さんと一緒に行ったボクシングジムでした。

「鏡に向かってパンチを打っていると、姉と鏡越しに目が合ったりして。身内にがんばっている姿を見られるのが恥ずかしくなっちゃって、全然集中できなかったんですよね。姉も同じ気持ちだったみたいで、『こんなんじゃ、痩せるまで通えないね』っていう、本末転倒な考えに行き着いたんです(笑)。

この出来事をSNSに書き込んでみたら、アメリカに留学している友人から『暗闇ボクシングがあるよ』とコメントをもらって。ちょうど姉とアメリカに行く予定があったので、実際に現地で体験してみたらめちゃくちゃ楽しかったんです。それで帰りの飛行機の中で2人で事業計画を立てて、すぐにビジネス展開の準備に取り掛かりました

即実行の根源は、両親からの教わった経営者のマインドだそう

凄まじいスピードで経営者の道を進み始めた塚田さん。この「やると決めたら、すぐに実行に移す」というマインドの原点こそが、両親から教わった経営者としての心得でした。

何かを始めるとき、この先どうなるかと悩む前にとにかくスピード感を持ってやってみる。どうすべきかは、それから考えればいい。そういったスピードと行動力の必要性は、両親が展開するビジネスでの失敗や学びから、身をもって教え込まれていました。いわゆるPDCAのDから始めるというこのマインドは、創業を即決断したときもそうですが、いまの自分の経営スタイルにもよく現れていると思います」

同年6月、両親から2億円の融資を受け、b-monsterの第1号店となる銀座スタジオをオープンすると、たったの2カ月で目標集客人数の1,000⼈を達成。華々しいスタートの裏側で、両親からの融資に対して批判的な声を寄せられることも多かったそう。

「『起業に不安はない』とメディアの取材などでお答えすると、もれなくネットが炎上しました。『親に2億円出してもらっているんだから当たり前』と。人材の確保に、店舗の設立、広告イベントの開催と一生懸命に取り組んだだけに、もちろんとても悔しかったです。

だけど、銀座スタジオのオープン初日に来てくださったお客さまがとても楽しそうに帰っていく姿を見たときに、報われた気がしたんです。はじめて自分がつくったもので、両親や利害関係なく喜んでもらえた。それがものすごく嬉しくて幸せで。このとき、幼いころから抱えていた『誰かに認められたい』という思いが、はじめて満たされたように思います

スタッフに学びや成長の機会を与えないのは違う、という気づき

経営初心者だった塚田さんを悩ませた出来事とは?

絶対的な信頼を置く姉の美樹さんとの起業ではあるものの、会社の経営どころか、社会人経験のない塚田さんとっては、はじめて尽くしの毎日。創業当時は戸惑うことばかりだったと振り返ります。

ある社員に『1日何しているんですか? 塚田さんの動きがわからないので日報を出してください』と言われたときは、さすがに『ううう……』となりましたね(笑)。店舗や会社のために行っている努力や苦労が伝わっていないことがショックだったし、正直いら立ちもしました。でも考えてみたら、新しい会社ということもあって、社員たちを不安にさせてしまっているんじゃないかと反省。それで改めて、社長としての役割や日々の業務について、丁寧に説明して理解を得ることに注力しました」

創業4周年のとき、スタッフさんからプレゼントされたフォトメッセージ

スタッフのマネジメントに頭を悩ませていた時期も。

「あまりに悩みすぎて、一時はちょっと諦めていたこともありました。というのも、スタッフにポジションを用意しても、『リーダーになるのは望んでない』『もっと気楽に働きたい』という声がちらほら上がったこともあって、うちのスタッフはうちの会社で、そこまで自分の成長を望んでないんじゃないかって……。

そんなときに出会ったのが、Netflixの女性人事の方が書いた『NETFLIXの最強人事戦略 自由と責任の文化を築く』という1冊。その本には、『人は必ず成長したいと思っている。社員の成長を促すためには、子供扱いせずに1人の大人として扱うことが大事である』というようなことが書かれていました。これを読んで、成長したくないなんて勝手に決めつけて、学びや成長の機会を与えないのは違う。もしかしたら、私が用意するポジションや環境に間違いがあるのかもと。それからは、みんながそれぞれの目標に向かって成長していけるような環境づくりに徹しました。『将来の夢』や『b-monsterで叶えたいこと』を書き込む社内用チャットのスレッドをつくったりして」

こうした努力もあって人気と知名度を高めていったb-monster。会員の心を掴んで離さない理由の1つに、パフォーマーの一人ひとりが自分の個性を発揮し、パフォーマーの数だけ異なるプログラムがあることが挙げられます。その手腕によって会員数が左右されるとはいえ、予約数や人気度を評価対象にしていないそう。

予約数や人気度を人事評価に直結させると、パフォーマーの気にする矛先がプログラムの精度ではなく、人集めに変わっちゃうと思うんです。だからb-monsterでは、審査チームがブランドに沿っているか、プログラムの精度はどうか、といった基準に従ってパフォーマーを人事評価しています」

コロナ禍で店舗が閉業。自分は何をすべきか問い続けた

コロナ禍に見舞われても、前へ進む決心をした塚田さん

さまざまな困難を1つずつ乗り越えながら、b-monsterの店舗を海外にまでに拡大していった塚田さん。そんな順風満帆の中、コロナ禍が襲います。2020年3月に発令された緊急事態宣言では、全スタジオの休館が余儀なくされました。

どうすべきか悩み迷い、とても不安で苦しかったです。銀行や政府からの融資でなんとか持ち堪えていましたが、会員数が集まりきっていなかった大宮スタジオを閉めることにしました。開店から1年も経っていなかったし、はじめて店舗を閉めたことにショックが大きかったです。そして何より大宮スタジオに通っていただいているメンバー(会員)さんや、スタッフには申し訳ない気持ちでいっぱいでした」

b-monsterには150名以上のスタッフが在籍する

店舗が閉業に追い込まれたとき、塚田さんが真っ先に考えたのは、通ってくれているメンバーやスタッフたちに何ができるか、ということ。

「大宮スタジオ限定の料金を都内の店舗にも適用したり、Zoomを使ったオンラインフィットネスを開催したり。大宮スタジオのメンバーさんが、他店舗にも通いやすくなるような施策を考えました。スタッフに関しては、大宮スタジオの店長に閉店を打ち明けると、『わかりました』と意外にも前向きな反応で。それで落ち込んでいる場合じゃない、経営者の私こそが前を向いてがんばらないといけないと襟を正せました。ほとんどのスタッフが東京の店舗に移店という形で会社に残ってくれたのも、本当にありがたかったし救われました」

やりたかった」という後悔を残したくない

「EAT for E」のメニューは、代々木上原のレストラン「sio」の鳥羽周作シェフが監修する

コロナ禍が続く今年の5月、新業態となる昆虫食をメインに提供するサステナブルカフェレストラン「EAT for E」をオープンした塚田さん。フィットネス事業を展開するb-monsterが飲食店をやるならば、高タンパク・低脂質の体にいいものに加えて、あっと驚くようなスーパーフードがいい。そこで行き着いたのが昆虫食でした。

「昔、『ゴキブリの羽とエビの尻尾は同じ成分でできている』という内容のテレビ番組を友人と一緒に見たことがあったんです。友人が『もう、エビのしっぽは食べられない』と気持ち悪がる一方で、私は『ゴキブリの羽って食べられるんだ!』と新たな気づきにワクワクして。

そのときの出来事をふと思い出し、自分と他者では物事の捉え方が違うということをふまえて新業態の展開を決意しました。馴染みがなく昆虫食を嫌がる人はいるかもしれないけれど、知ることで好きになる人もたくさんいると思ったんです。それに昆虫食は牛肉などと比べて、生産過程のメタンガスの排出量も少なく環境負荷も小さい。サスティナブルな昆虫食を取り入れることは社会的に意義のあることだし、『人生一度きり。やれないことより、やれることが増えていく人生の方が豊かだよなぁ』と思って挑戦することにしました

さらに6月には、姉の美樹さんとの共同経営を取り下げ、1人代表になることを発表しました。

「姉と一緒に起業して6年経ちましたが、少しスピード感が遅くなっていると感じていたし、お互いに大事にする部分や信じるものが少しずつ違っていたんです。相手の意見に対して自分が責任を持てない部分もあり、会社にとって最善の方法を話し合った結果、1人代表として運営することを決めました。あ、でも、姉妹としてはいまもとても仲良しですよ(笑)。姉のことは本当に尊敬していますし、大好きなのはずっと変わりませんから」

いま目指すのは、上場ではなくて目の前の事業の成功

b-monsterの今後の展開は?

全部で4ブランドを展開し、企業として進化し続けるb-monster。1人代表としての次なる一手が気になりますが、「当分の間、上場するつもりはない」と言います。

「確かにフィットネスジムのb-monsterは成熟したかもしれませんが、リアル店舗を抱えながら上場を目指すのは大変だと思いますし、ビジネスモデルとしてもあまりメリットを感じられないので、いまのところ上場は考えていません。それより、昆虫食をメインに提供するサステナブルカフェレストランや、バーチャルのフィットネス事業など、いま自分がやりたいと思うことに一直線に取り組んでいきたいです。

もちろん、将来的にはいろいろな事業を展開できたらと思っていますが、それをb-monster内でほかの誰かに引き継いでやるのか、別の会社を設立してやるのかはわかりません。ただ、b-monsterは姉や私の思想がものすごく詰まっているし、自分たちの感覚で経営してきた部分も大きいので、ほかの人にそれを継承してもらうのは難しいとも感じています。だから、もし自分じゃない誰かに会社を委ねることがあるとしたら、M&A(企業や事業の合併や買収)を行ってシナジーを生み出してもらうのはありかなとは思っています

姉と離れても、スピード感を持って「やりたいこと」を成し遂げていく

「まずは一歩踏み出すことが大切です」と塚田さん

会社の創業、新事業の展開、1人代表としてのリスタート。27歳の起業家としてはあまりにも経験が豊かで、生き急いでいるようにも見えますが……。

「よく言われます(苦笑)。だけど、元来の好奇心旺盛な性格もあって、ついやりたくなっちゃうんですよね。暇なバイトだと時間が過ぎるのが遅くて退屈だったように、忙しくしていないとなんか落ち着かないんです」

そう軽やかに語る塚田さんですが、新しいことへの挑戦の裏側にたくさんの苦労が絶えないことは、想像するだけでも容易にわかります。それでも挑戦し続ける理由を尋ねると、高校時代の思い出とともにこう答えてくれました。

たとえ失敗しても、失敗できてよかったなって思うんですよね。私、高校生のときに、ネットで見つけた相方と一緒に『ハイスクールマンザイ』に出場したことがあるんですよ。昔からお笑いが好きで、漫才師になりたくて。

それでいざ本番を迎えてみると、結構ウケたんですけど、嬉しいというよりほっとしちゃって。高揚感は得られても、『漫才をやっていこう』というポジティブな感情にはなれなかったんです。それで漫才師の夢は諦めたんです。

きっとあのとき、漫才に挑戦しなければ、ずっとやりたかったという後悔だけが残ったと思うんですよね。でも実際にやってみて続けられないことがわかったから、やらない後悔より、やる後悔のほうが大切だと学べた。そんな経験があったから、どんなにしんどくても、やりたいと思ったことには全力で挑戦し続けたいんです

塚田眞琴(つかだ まこと)

b-monster株式会社 代表取締役。
1994年東京都生まれ。駒澤大学法学部政治学科を2年生で中退後、2016年3月、21歳のときに姉の美樹さんとb-monster株式会社を設立。同年6月、暗闇ボクシングのフィットネスジム「b-monster」の第1号店を銀座にオープン。都内を中心に店舗を拡大し、現在、上海や台北など国内外合わせて12店舗を展開する。2021年5月、バーチャルトレーナーのフィットネスジム「TOY VOX」、そこに併設する「サスティナブル」がテーマの昆虫食をメインにしたカフェレストラン「EAT for E」を渋谷にオープンした。自身の誕生日を1年で一番辛いことをやり遂げる日に設定するほど、挑戦に貪欲。

b-monster:https://www.b-monster.jp
EAT for E:https://eat-for-e.jp
塚田眞琴さんのTwitter:@makoto_tsukada

撮影/武石早代
取材・文/小山田滝音 

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