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AIは、コミュニティマネジメントの夢を見るか? | ひぐちなおやコラム-メシのネタになるコミュニティの話-

AIは、コミュニティマネジメントの夢を見るか? | ひぐちなおやコラム-メシのネタになるコミュニティの話-

「AIにコミュニティマネジメントができるだろうか」

猫も杓子も「AI」について語る昨今。

ChatGPTやStable Diffusionを筆頭に、生成系AIへの注目が集まっています。

申し遅れました。株式会社ニューピースのひぐちと申します前回のコラムで、「次回は歴史について書くのだ」と宣言しましたが、わたしも例にもれず「AI」と「コミュニティ」の関心が高まってしまいました。

テクノロジーの進歩によるまだ見ぬ未来に好奇心が高鳴っています。一方で、新しい技術であり、解決すべき問題や不安を感じる声も耳にします。

例えば、「自分の仕事がAIに奪われてしまうのか」

まあ、クリシェみたいなもんであり、様々な方が見解を述べていますが、やっぱり気になりますよね。この問いへの回答は、総務省の調査研究(※図2-2-2-1)に回答を譲ります。

ただ、コミュニティマネジメントに限定すると、どこまでAIが助けてくれる(あるいは、代替されてしまう)のでしょうか。人間にしかできない超重要な仕事になる気もしますが、本当にそうなのかしら。うーん、気になる。

ということで、みなさんを巻き込んで、情報を深めるお付き合いをさせてもらいます。

リレーションシップとコミュニケーションのデザイン

そもそも「コミュニティマネジメント」はいったい何をする仕事なのでしょうか。

市場的には新しい職能であるため定義が揺れているので、断片的な情報を元に焦点をあわせてみます。

仕事といえば「Indeed」だろう、と調べてみたら記事がありました。

原文の英語を要約すると、「セールスやプロダクトチームと連携しながら特定のターゲットグループに向け、様々な媒体で顧客のエンゲージメントを高めるマーケティング施策の設計、企画、実施を行う仕事」のようです。

顧客との関係を重視する商売と相性が良い「Shopify」もコミュニティマネジメントに言及していました。筆者曰く、「コミュニティマネジメントの核は、関係性と公の場でどのようにブランドについて顧客同士がコミュニケーションをとる機会をつくるか」だそうです。

引用:https://www.shopify.com/ng/blog/community-management

まちづくり系の書籍や各社の記事の内容も加味すると、コミュニティの認識は様々ですが、共通して「リレーションシップとコミュニケーションの2点をいい感じにデザインするのが重要っぽい」ようです。

リレーションシップのデザインとは、ネットワークをつくること、すなわち、誰かと誰かのつながりを操作することであり、コミュニケーションは、パスの強弱やノード同士の距離を操作することです。

ちょっとわかりにくい……。

では、オンラインの共同学習コミュニティを例に考えてみましょう。

そのコミュニティでは、古参と新参でグループが分離してしまっているようです。

コミュニティマネージャーが、新参のAさんに参加背景を聞いたところ、古参のBさんと同じ課題を抱いていることがわかりました。しかも、2人は好きな音楽も近そう。なので、BさんにAさんを紹介し、グループを混ぜるきっかけをつくる。これがリレーションシップのデザインです

AさんとBさんが継続的に話しやすくなるように工夫を凝らす、こちらがコミュニケーションのデザインです。趣味が伝わるようにアイスブレイクゲームをつくったり、あえてコミュニティマネージャーを含む3人で話したり、あるいは一緒に釣りに行ってみたり。あえて、2人に強制的に話すミーティングを設定するなどもあるかもしれません。

このような行為を、コミュニティの目的やタイプ、メンバーの数に応じて、人力とシステム双方でアプローチする行為がコミュニティマネジメントだと言えそうです。

わたし自身のコミュニティ運営経験や、上場企業役員経験者の方々との組織論での対話、オフライン/オンライン双方のコミュニティマネージャーとの議論と照らし合わせても、結構芯を食っているだろうという洞察です。

AIは何ができるんだろう

「AI」も同じくファジーな言葉であり、もう少し考える必要がありそうです。

今回は、AGI(汎用型AI)ではなく特化型AIであり、Latent Diffusion ModelやLarge Language Modelなどtransformer をベースにしたモデルを使用したGenerative AIに限定します。

それぞれのキーワードを素人目線で解説するのは無謀の極みかつ先人に失礼なので、解説は各プラットフォームの記事や論文に譲ります。

まあ、要するに今回は、 GPTとかStable Diffusionなどの系統に絞るよ、ということです。

ひとまず、現状のAIは「どこまでできるか」を調べてみました。

やった感を演出するために、GPT-3.5を使用し、自己紹介を生成するアプリケーションをつくってみました。自分の情報を入れると、シーンと人格にあわせた文体で生成してくれるシンプルなものです。プロンプトデザインのスキルが未熟ではありますが、それでも「漫画の主人公」や「陽気な関西弁」、「スポーツ好きな熱血漢」など、なんとなくそれっぽい文体をつくることはできそうでした

関西弁の口調で生成してもらった画像

また、25人の仮想エージェントの村を作り、村人同士がどのように振る舞うかを検証している論文(Generative Agents: Interactive Simulacra of Human Behavior)も話題になっていましたね。

概要を整理すると、仮想空間に人格の異なる25の村人を設定し、彼らが他の村人の交流や出来事を受けて自発的に行動を変化させていくオート・シミュレーションを試みたという話です。論文を読む限りでは、村人がバレンタインに合わせてパーティを開いたり、それを受けて自分の仕事にあわせて参加可否を決めたりする模様が記述されており、読み応えのある内容でした。

実は、論文のキーになるのは「村人の長期記憶」の設計で、ここにはAIが使われていません。(記憶について考えるのも面白いので、興味ある方は読んでみてください)じゃあAIは何してるの、ということになりますが、村人の「記憶」を元に、行動を生成するために「GPT-3.5」が使用されているようです。

他にも、画像生成も人間と見分けの付かないAIモデルが生成されて広告に運用されている事例もありますし、AITuber(AIで動くVTuber)も続々登場しており、「人間」との区別は難しくなっている気がします。

ただ、「リレーションシップとコミュニケーションをいい感じにデザインする」ことを担うには、まだ大きな壁があるように映ります。

AIに「人格」を憑依させることはそう遠くない未来にできるでしょう。ただ、ここの「人格」は与えられた情報に対してどのようにリアクションするのか、すなわち「自分と外部」の1対1の関係性によって表されています。リレーションやコミュニケーションをデザインするには、自分以外の「2つ以上の他者の情報」を元に、コンテキストを解釈し、適切なアクションを設計しなければなりません。

使い慣れた言葉を使うなら「空気を読む」行為は、まだ解かれておらず、もう1段難しい問題になってくるようです

AIはコミュニティマネジメントの夢を見るか

なんやかんや言いましたが、私はコンピュータも、数学もそこまで詳しくないずぶの素人。このまま文を閉じるわけにはいかない。助けて、専門家。

と考えていたところ、運が良いことに、弊社のイベントで、海外有名大学の物理学の博士号を取得し、量子コンピューティングの会社で取締役をしている方とお話する機会に恵まれました。ありがとう、専門家。

雑談の中であり、公式見解ではないですが、快く答えてくださいました。めちゃくちゃおもしろい話だったのですが、要点だけ抜き出すと、「AIがコンテキストを解釈するようになるためには、『長期記憶の設計』と『データ取得』が肝であり、大きな技術的挑戦ポイントである」とのことでした。

なるほど。

わたしたちが他者のコンテキストを解釈する際には、自分の「経験的な記憶」を元にしている気がします。先ほど言及した論文でも、記憶の保持は2日間程度だったことを考えると、私たち人間の記憶力は圧巻ですね。

ただ、記憶を「解釈」する力は、AIの方が安定して高いのも事実でしょう

人間の場合はばらつきが大きく、「それを言っちゃ駄目」なことを口にしてしまって、うまく関係を設計できない方もいるし、一方で、一見のお客さんと少し話すだけで、自然にお客さんを繋げてしまうような、飲み屋の大将や女将さんもいるわけですし。

色々考えましたが、「AIにコミュニティマネジメントができるだろうか」へのアンサーは、「『記憶』と『データ』の問題が解決されるまではできない」になりそうです。もちろん、補助的には十二分に働いてくれるでしょう。

いつまで続くかはわかりませんが、コミュニティマネジメントの黄金時代がくるかもしれません。その時まで楽しみです。

ひぐちなおや

NEWPEACE Product Manager / Community Manager
東京大学工学部社会基盤学科卒業。都市コミュニティと文化の関係性などを研究。リクルートホールディングスへ入社し、プロダクトマネジメントおよびUXデザインを担当。その後、NEWPEACEに入社し、プロダクトブランドのPMなどを担当。その後、新規事業開発およびプロダクトチームを立ち上げる。現在は、comcom の事業開発とプロダクトマネジメントを行う。居場所づくりで飯が食える社会の実現を目指す。

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