会社経営における財務や税務について、新米経営者の成田龍矢さんが税理士の山内真理先生にレクチャーを受ける本連載。4回目の今回は資金繰りに欠かせない、創業時に利用できる公的な融資・助成金の制度を学びます。「知らないと後悔する制度が実はたくさんあるんです」と山内先生。制度の利用条件から、金額、申請方法までご紹介します!
■連載 第1回「起業に必要なマインドとタイミングの見極め方」 第2回「「税理士・公認会計士を賢く“使う”コツ」 第3回「税務行事を制する者は、経営者の一大行事“決算”を制す!」
成田さんの会社の資本金を発表しちゃいます !
株式会社を設立した場合、資本金が必要となります。資本金とは、会社が事業を行うために株主などの出資者から集める元手のこと。通常、株式会社では経営が取締役に委任され、株主は 出資のほか、株主総会での重要事項の承認などによって経営に間接的に参加するにとどまります。ただ、小さな会社では創業者が取締役と株主の立場を兼ねることもしばしばです。 なお、設立時の資本金の額は、会社設立後は「登記簿謄本」に記載されます。登記簿謄本は誰でも取得・閲覧が可能なので、資本金の額も他者に公開されます。ちなみに成田さんの会社「LON」の資本金の額を聞いてもいいですか?
しっかりとした金額ですね。いまは資本金1円から会社を作れる時代に入りましたが。
ちょっと見栄を張っちゃいました(笑)。資本提携を結んでいる会社と相談して決めたんです。300万円くらいあれば、世間からの信用度も高いのではないかと。
資本金は信用力の観点から、やはり多いに越したことはないですね。ただし、経済的に無理してまで大きな金額にする必要はありません。一般的な小規模会社であれば、資本金は100万円から、100万の倍数で設定している会社が多い印象 ですが、設定額は会社によって本当にさまざまですね。
資本金となる金額を銀行から借りるのはNGです。借入金は返済しなければならないお金であって、資本金かのように見せかける行為は「見せ金」といって禁止されています。 そのため、開業の準備にあたり、自己資金をしっかり貯めておくことも大切ですね。
とりわけ初年度は事業の立ち上がりまでに費用などがかさむことも多く、資本金が小さすぎるとあっという間に貸借対照表上「債務超過」となってしまうこともあります。 「債務超過」とは、会社の負債の金額の方が資産の金額を上回っている状態のこと。財務体質は大丈夫かな?と不安を与えてしまう決算書の見た目になってしまうことを意味しますので、その点も考慮におきながら資本金の額を決定しましょう。
現実的な金額設定って難しいです。経営者の先輩や専門家などに相談できると心強いですよね。
本日のレジュメ 「創業の資金繰りがピンチ!そんなときに頼れる公的な融資・助成金って?」
【POINT 01】“創業時のお金の負担を減らしたいなら、公的融資がおすすめです”
第4回目となる今回は、会社経営に欠かせない資金についてお届け!
今回は、創業の資金繰りや資金調達について学んでいただきます。
新米経営者にとって気になるところです! 僕の会社はクリエイティブ系のプロデュースと制作が主な事業で、多額の経費はかからなそうなので資金調達についてあまり真剣に考えていませんでした。
会社を安定的に経営するには、恒常的な運転資金が必要。 たとえば、長期で大型案件に従事して、仕事の着手から入金まで大きなタイムラグが発生すると、その間に給与を支払ったり、外注したりしてキャッシュは出ていくばかり。また、最初に多額の設備資金が必要なビジネスモデルの場合、その資金回収に時間がかかることもしばしばです。そんなときに、創業フェーズで使えるおすすめの融資制度を2つご紹介しておきましょう。
1つは政府系の金融機関の日本政策金融公庫が実施している「新創業融資制度」。無担保・無保証人で融資を受けられることが特長です。 一般的に金融機関から融資を受ける場合、代表者個人が連帯保証人になることを求められますが、この新創業者融資制度はその必要がない点が大きなメリットなんです。
対象者の要件は、「新たに事業を始める方、または事業開始後税務申告を2期終えていない方」。また、自己資金の要件として、「新たに事業を始める方、または事業開始後税務申告を1期終えていない方は、創業時において創業資金総額の10分の1以上の自己資金を確認できる方」です。くわしくは、
WEBサイト をチェックしてみてくださいね。
新創業融資制度の概要
対象 下記のすべての要件に該当する方 1.対象者の要件 新たに事業を始める方または事業開始後税務申告を2期終えていない方(※1) 2.自己資金の要件(※2) 新たに事業を始める方、または事業開始後税務申告を1期終えていない方は、創業時において創業資金総額の10分の1以上の自己資金(事業に使用される予定の資金をいう)を確認できる方。ただし、「現在お勤めの企業と同じ業種の事業を始める方」、「産業競争力強化法に定める認定特定創業支援等事業を受けて事業を始める方」などに該当する場合は、本要件を満たすものとする(※3) 資金の使い道 新たに事業を始めるため、または事業開始後に必要とする設備資金および運転資金 融資限度額 3,000万円(うち運転資金1,500万円) 融資限度額 各融資制度に定める返済期間以内 利率(年) こちらからチェック 担保・保証人 原則不要 ※原則、無担保無保証人の融資制度であり、代表者個人には責任が及ばないもの。法人の方が希望する場合は、代表者(※4)が連帯保証人となることも可能。その場合は利率が0.1%低減される。
日本政策金融公庫のHP より ※1 新たに営もうとする事業について、適正な事業計画を策定しており、当該計画を遂行する能力に十分あると認められる方」に限る。創業計画書の提出や事業計画の内容を確認も必要 ※2 詳しくは、こちら から要確認 ※3 事業に使用される予定のない資金は、本要件における自己資金には含まない ※4 実質的な経営者である方や共同経営者である方を含む
個人事業の開始から起算して要件を満たすようであれば、この制度の活用が可能ですのでおすすめです! そしてもう1つは、都道府県や市区町村等の自治体、金融機関、信用保証協会の三者が連携して融資する「制度融資」。 各自治体によって利用の条件などが若干異なるため、各自治体の制度の概要を事前に理解しておくことも大切です。成田さんの会社は東京のどちらで創業しましたか?
それなら、渋谷区の公式ホームページで「創業支援資金」の項目をチェックしておくと、必要なときに利用できるかもしれません。
そんな制度があるなんて全然知らなかった……。確認してみます!
「すぐに利用しなくても、いろいろな制度があることを知っておくのも大切ですよね」と成田さん
渋谷区の創業支援資金の融資金額は、原則2,000万円以内(必要額の2分の1相当額まで)。対象は「自己資金および具体的な事業計画があり、個人または法人で区内に創業予定もしくは創業後1年未満」などになります。注意点としては、必要額の全額を取れるわけではないこと。 また、自治体によって細かい条件もありますので、詳細をチェックしておくことが大切です。
また、制度融資の最大の特徴は、「信用保証協会」という公的な第三者機関の保証制度の利用が条件となることです。 自治体と信用保証協会、金融機関の三社連携による制度なんです。もし事業者の返済が滞った場合、代わりに信用保証協会が金融機関に返済するといったシステムになっています。 これを代位弁済といいます。
いえ、もちろんそんなことはありません(笑)。その場合、事業者は信用保証協会に対して返済する義務があります。また、最初に審査を通ったら、信用保証協会に一定の信用保証料を支払います。信用保証料は借入金額や保証料率、借入期間、返済方法により算出されます。
この制度融資がおすすめなのは、「利子補給」があること。制度融資の利息の一部を自治体が負担してくれるんです。 たとえば、渋谷区の創業支援資金なら、年の利率1.7%以内のうち、渋谷区が1.6%も負担してくれるから、なんと利用者の利率(固定金利)は0.1%以内です。また、前述の信用保証料も東京都が半分肩代わり(補助)してくれるというメリットも(※5)。経営者が経済的な負担を減らすという観点から、制度融資で借入れはぜひ検討したいところです。
※5 渋谷区の「創業支援資金」と東京都の融資制度「創業」の要件を満たす場合。ただし、貸付期間5年超~7年以内のものに限る
ただ、手続きにやや時間と労力がかかるというデメリットがある ことを知っておきましょう。たとえば、渋谷区の例であれば、渋谷区の産業観光課に申し込み、専門の経営相談員の融資相談を何度か受けることが必要となります。その後、斡旋書を取得し、保証協会及び金融機関へ申し込み、審査を経たうえで、資金が利用できるまでには通常2カ月程度はかかります。また、面談には「創業計画書」など一定の書類の準備が必要になります。経営者の略歴や会社の基礎情報、事業の計画などの情報を書き込まなければなりません。
渋谷区の「創業支援資金」
融資金額 2,000万円以内(ただし必要額の2分の1相当額まで) 営業に供する自家用自動車は400万円まで(原則として建設業・運輸業の事業用車両を除く) 対象 次に該当する中小企業(法人・個人)。ただし、特定非営利活動法人は非対象 ・事業を営んでいない個人で、「事業に必要な知識・経験」もしくは「法律に基づく資格」を有し、自己資金 および具体的な事業計画があり、個人または法人で区内に創業予定もしくは創業後1年未満である 資金の使い道 運転・設備のいずれか、または両方同時 利率(固定金利) 利用者負担0.1%以内(年1.7%以内のうち、渋谷区が1.6%負担) 貸付期間 7年以内(据置1年を含む) 東京都による保証料補助 渋谷区の「創業支援資金」と東京都の融資制度「創業」の要件を満たす場合、東京都より信用保証料を2分の1補助。(ただし、貸付期間5年超~7年以内のものに限る) ※創業前の医療法人は東京都融資制度「創業」の要件に該当しない。 持参物 初回の面談の際は、任意書式で作成した創業計画書か事業内容説明書、確定申告をしている人は確定申告書控(貸借対照表、損益計算書を含む)
渋谷区のHP より
自力では大変そうだぁ……。ちなみに、 新創業者融資制度と制度融資は併用できるんですか?
はい、併用できますよ。それぞれ細かく条件が違いますので、条件に合致するかどうかをまず確認しましょう。新創業融資制度は原則として 、 自己資金の9〜10倍まで借入れできます。だから、借入れに必要な金額の10分の1は自己資金を持っていなければいけません。 そのため、創業時にある程度の自己資金があったほうが有利ではあります。ただし、融資額に上限がありますし、制度融資の低利のメリットも捨てがたいので、併用することもおすすめです。
創業してすぐ新規事業を始めるときとか、資金が必要なときに助かりますね。
そうですね。新たに事務所を構えるときの内装工事費用や、プロダクトの販売事業を始めるときに売上が立つまでの運転資金など、資金が必要な局面はたくさんありますからね。弊所(公認会計士山内真理事務所)だけでなく、会計事務所で融資支援をしているところは、複数の制度を併用したり、助成金と組み合わせた活用の提案などもしています。
【POINT 02】“創業助成金の申請はタイミングが重要です”
「国や自治体の助成金・補助金を知っておいて損はありませんよ」と山内先生
融資制度だけでなく、国や自治体による創業時の助成金・補助金もいろいろあるんですよ。
はい、返済義務はありません。 たとえば東京都なら、東京都中小企業新興公社による「創業助成金」があって、助成の内容が結構手厚いんです。 賃借料、広告費、従業員人件費など、助成対象と認められた経費の3分の2以内、100〜300万円が助成されます。
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東京都中小企業新興公社「創業助成金」について
助成対象は、「都内で創業を予定している方、または創業後5年未満の中小企業者等のうち、一定の要件(※6)を満たす方」。もちろん、申請の採択率は決して高くはないですが、創業期からまとまった資金を要する事業を展開しようとしている事業者は、検討して損はないと思います。
ただし、公募期間が限定的です。 毎年度、4月頃に10日ほど一次公募が行われ、その後、間隔を空けて二次、三次と公募があり、徐々に採択率は下がるといわれています。また、公募開始から申請の締め切りまでが約10日程度と短いことが多いため、見逃さないよう情報を取得する必要があります。 書類と面接などによる審査を経て採択が決まります。
※6 「TOKYO創業ステーションの事業計画書策定支援修了者」「東京都制度融資(創業)利用者」「都内の公的創業支援施設入居者」など
創業助成金(東京都中小企業振興公社)
対象 都内で創業を予定されている方、または創業後5年未満の中小企業者等のうち、一定の要件(※)を満たす方 ※「TOKYO創業ステーションの事業計画書策定支援修了者」「東京都制度融資(創業)利用者」「都内の公的創業支援施設入居者」など 助成対象期間 交付決定日から6カ月以上2年以下 助成限度額 上限額300万円、下限額100万円 助成率 助成対象と認められる経費の3分の2以内 助成対象経費 賃借料、広告費、器具備品購入費、産業財産権出願・導入費、専門家指導費、従業員人件費
東京都産業労働局 東京都創業NET より
これも自力ではいろいろと大変そうだなぁ。頼れる機関とかってあるんですか?
助成金のサポート事業をしている会計事務所やコンサルティング会社へ依頼する手もありますが、まずは予算をかけずに知識を整理したり、相談に乗ってもらうなら東京都なら東京商工会議所の「創業支援センター」に問い合わせてみるのもおすすめです。 電話で事前予約することで、税理士などの専門家に創業計画や助成金申請に関する準備や手続きの相談ができます。まずはいろいろな制度や窓口、支援の機関を頼れることを知っていただき、それらの特性を踏まえながら、自分に合った方法や機関を選ぶことが大切と思います。
たしかに、お金や事業に関する知識を蓄えられそうだなぁ。
助成金を申請するうえで必要となる、創業計画や事業計画を練ることは結構なトレーニングになります。 骨を折ってでも自分なりに血肉になるからやってみる、もしくは会計事務所などの専門機関に多少フィーを払ってでも、壁打ちをがっつりとやりながら、二人三脚でブラッシュアップする方法もあります。無理してまでやる必要はないですが、余力があるなら勉強がてらトライしてみるといいかもしれません。
自社のWEBサイトを制作する場合、その費用は自分のポケットマネーから出そうかなって思っていたんです。でも、助成金を申請して採択されれば、自分の財布の紐をゆるめずに済みますね!
【POINT 03】“申請作業がやや複雑なIT導入補助金について把握しましょう”
ここで成田さんから、いま気になっているという補助金についての質問が!
周囲の経営者がよく話している「IT導入補助金」について気になっていて。 どういう内容なんでしょうか?
IT導入補助金は、経済産業省が中小企業や小規模事業者向けに実施している制度です。ソフトウェアなどのITツールの導入による経費の一部を補助してもらえます。 条件となる資本金額や従業員数は、業種ごとに異なります。補助金額の上限額は30万円〜450万円以下、補助率は3分の2から2分の1以下で、それぞれITツールの特長によって異なります。なお、すべてのITツールが補助の対象とはならないので注意が必要です。 対象となるITツールは、IT導入補助金のWEBサイトから検索できます。
IT導入補助金のWEBサイトから申請し、審査に通れば補助金が交付されます。弊所も申請し、交付を受けたことがありますが、後年の報告も含めるとそこそこ負担もあります。なので費用対効果を吟味して、事務量も含めおつりが来るような規模感の申請をなさることをおすすめします(苦笑)。
「手間や負担を考えて申請してくださいね」と山内先生からアドバイス
この手の補助金に多い仕組みですが、申請だけでなく、交付決定後にITツールの導入が無事に終わったら「事業実績報告」をして、ようやく補助金額が決定するんです。さらに、交付決定後は一定期間、後年の手続や「事業実績効果報告」をする義務もあります。 ITツールを購入し、導入した結果、業務や収益にどのような効果があったのかを報告します。なお、交付決定の連絡が届く前にITツールの発注や契約、支払いなどを行った場合は、基本的には補助金の交付を受けることができないので注意が必要です。
想像以上に大変そう。申請するなら相当なやる気が必要ですね!
IT導入補助金に限らず、創業者向けの公的な融資制度や助成金について知らないと、せっかく権利があっても利用できないので、まずは知ることが大事ですね。上手に使いこなせば、費用の負担を減らせるうえ、お金に関する勉強もできます。 会社を設立したばかりでお金に関する不安が多いとき、公的な融資や助成金を頼って少しでも負担を減らせるといいですよね。
僕もたくさんの使える制度を知って、とても励みになりました! 今回もありがとうございました!
転ばぬ先の杖となる公的な融資制度や助成金について学び、ホッと一安心な様子の成田さん。次回も駆け出しの経営者に必須のお金の知識をお届けしますので、どうぞお楽しみに!
山内真理(やまうち まり)
公認会計士・税理士。1980年生まれ。一橋大学経済学部卒業後、有限責任監査法人「トーマツ」を経て、2011年にアートやカルチャーを専門領域とする「公認会計士山内真理事務所」を設立。豊かな文化の醸成と経済活動は裏表一体、不可分なものと考え、会計・税務・財務等の専門性を生かした経営支援を通じ、文化・芸術や創造的活動を下支えするとともに、文化経営の担い手と並走するペースメーカー兼アクセラレータとなることを目指す。芸術文化活動に関わる人に法律的側面から支援を行う非営利の活動団体「Arts and Law」の理事、特定非営利活動法人「東京フィルメックス実行委員会」理事、東京芸術祭監事ほか。
公認会計士山内真理事務所/株式会社THNKアドバイザリー:
https://yamauchicpa.jp/
成田龍矢(なりた りゅうや)
1994年生まれ。大学卒業後、人材事業会社に入社。スポーツ領域の人材事業やスポーツイベントや興行支援に従事。その後、大阪のクリエイティブ系のスタートアップ企業に転職。東京支社を設立し、ウェブ制作事業の営業やディレクターとして活動。2019年、独立してフリーランスのプロデューサーに。2021年4月、自身の会社「LON」を設立。
撮影/武石早代 取材・文/川端美穂(きいろ舎)