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税理士・山内真理×新米社長の華麗なる決算への道【3】「税務行事を制する者は、経営者の一大行事“決算”を制す!」

税理士・山内真理×新米社長の華麗なる決算への道【3】「税務行事を制する者は、経営者の一大行事“決算”を制す!」

税理士の山内真理先生が、会社経営における税務のアレコレを新米経営者の成田龍矢さんにアドバイス。連載第3回のテーマは、年間の主な税務行事について。法人税の節税ができる「青色申告」の承認申請から、最重要とも言える「決算」や「年末調整」まで、山内先生がわかりやすく解説してくれます。起業を志している人、必読です!

■連載 
第1回「起業に必要なマインドとタイミングの見極め方」
第2回「「税理士・公認会計士を賢く“使う”コツ」

会社設立日をうっかり勘違い! 正しく認識できた成田さん

山内
先生
成田さんが自身の会社「LON」を設立した日にちを聞いてもいいですか?
成田
さん
ええっと(ギクッ)。実は司法書士さんに丸投げしちゃって、全然わかっていなくて。こんなこともあろうかと定款を持ってきたんですよ(ドヤッ)。でも、ここに書かれてない……。
山内
先生
ふふふ。「定款」は会社の組織や活動、構成員などを定めた根本規則。株式会社の定款は、公証人に認証されて効力を持つものです(※1)。それとは別に登記記録が記載された「登記簿謄本」というのがあり、そこに会社設立日が載っていますよ。
成田
さん
(登記簿謄本をおもむろに開き)設立は4月20日です。あれ? 設立は5月だとずっと勘違いしてました(汗)。 

※1 合同会社の場合、認証不要。

成田さんが持参してきた定款と登記簿謄本をチェックする山内先生
山内
先生
正式な日にちがわかってよかったです(笑)。会社設立日は、基本的に法務局に会社設立の登記申請をした日。郵送で登記申請をした場合は、書類が法務局に到着し、受理された日になります。
成田
さん
これで今日から胸を張って言えます(笑)。

【POINT 01】 “「青色申告」の承認申請をすれば、欠損金を繰り越せます”

税務行事について、いざレッスン!
山内
先生
今日は会社を設立した初年度における税務行事について、成田さんに学んでいただこうと思います。まずは、会社が設立されたことを知らせるため、「法人設立届」を税務署に提出する義務があります。期限は、会社設立の日から2カ月以内。法人設立届は税務署だけでなく、都道府県税事務所や市町村役場などにも提出する必要があります。
成田
さん
あれ……。僕、顧問税理士さんがいるんですけど、出し終わっているのか全然把握していないです。
山内
先生
恐らく、税理士さんがついてればサポートしてくれるはずです。ただ、あらゆる手続きは自動で進むわけではないので、双方で積極的にコミュニケーションを取る必要がありますよ(笑)。「事務所を構えた」「人を雇った」など、節目節目で税理士に報告することがポイント。上手に連携して情報交換をしたほうがあらゆる手続きが円滑になり、お互いにとっていいはずです。
成田
さん
連絡を待つだけではダメなんですね。
山内
先生
さて、法人にも確定申告に「青色申告」と「白色申告」があるのを知っていますか?
成田
さん
えっ……。そうなんですか! 確定申告って、個人事業主だけがするものかと。
山内
先生
会社設立日から決算日までを「事業年度の1期目」と言いますが、青色申告を行いたい場合は、税務署に「青色申告の承認申請書」の提出が必要。設立1期目に適用するには、原則として設立日から3カ月以内に申請しないと、青色申告をすることはできません。
成田
さん
まだ間に合う(取材時は5月)! よかった〜。
青色申告の申請が間に合うことがわかり、安堵の表情を浮かべる成田さん
山内
先生
青色申告を選択する義務はありませんが、青色申告にはたとえば、「欠損金の繰越控除」といった経営者にとってのメリットもさまざまあるんです。会社の場合、その事業年度の所得金額がプラスなら法人税を納付する必要がありますが、所得金額がマイナスなら法人税の納付の必要はありません。所得のマイナスのことを「欠損金」と言いますが、青色申告で欠損金の繰越控除が適用されると、文字通り、欠損金を翌年度以降に繰り越すことができます。

たとえば、1期目に100万円の所得のマイナスが発生し、2期目に100万円の所得のプラスだったら、前期の100万円の欠損金を繰り越して相殺できるので、課税所得はゼロになります。欠損金の繰り越しは原則10年間可能(※2)。ただし、欠損金が生じた事業年度以降も連続して、確定申告を行う必要があります。

※2 平成30年以前に発生したものは、9年間の欠損金の繰越が可能。

成田
さん
欠損金の繰り越しができるのは、新米経営者にとってありがたい……!
山内
先生
ですよね。一方、白色申告だと、欠損金は切り捨てられ、なかったことのようになります。先ほどの例でいうと、1期目の100万円の所得のマイナスを繰り越せず、2期目の100万円の所得のプラスにそのまま課税されるんです。たとえば、新規事業や研究・開発系のベンチャー企業は事業に必要な資金をVC(投資ファンドや投資家)などから調達して、初年度は大赤字になることも。そうした場合に、青色申告の申請をしていないと大きな損失になる恐れがあります。
成田
さん
なるほど。早めに知ることができてよかったです。

法人における青色申告と白色申告の違い

青色申告白色申告
承認申請の提出期限事業年度開始の日の前日まで
※株式会社など設立初年度の場合、原則として設立日から3カ月以内(先に事業年度末が到来する場合にはその前日まで)に提出する
なし
※青色申告承認申請を行わない場合、自動的に白色申告となる
帳簿の記載方法複式簿記が必要単式簿記でもよい
税制上の優遇・欠損金の繰越(原則として10年間。平成30年以前発生分は9年間)
・少額減価償却資産特例(1組30万円未満の償却資産のうち、年間300万円を超えない部分について一括費用処理が可能)
青色申告のような優遇はなし
山内
先生
また、個人事業主から法人成りした場合は、青色申告の方はとりやめ届出書の提出も必要です。さらに、個人事業主は廃業となりますので、「個人事業の廃業届」も提出しなければなりません。これは、廃業の事実があった日から1カ月以内に税務署に提出しましょう。成田さんはタイミング的にすでに終わっていますね。
成田
さん
で、ですね。
山内
先生
会社設立の準備に追われていると、意外と忘れがちな税務行事です。また、消費税の課税事業者として毎年消費税を納めていた人は、「事業廃止届出書」も速やかに税務署に提出する必要があります。
成田
さん
そうなんですね。
山内
先生
さらに、所得税の予定納税がある方は、「所得税及び復興特別所得税の予定納税額の減額申請書」を提出も必要です。
成田
さん
忘れたらどうなるんですか?
山内
先生
事後的に確定申告で還付が可能とはいえ、廃業前と同様に期中に納税が必要となってしまいますので、少し厄介ですね。
成田
さん
それは大変だ。すぐに対処しなくちゃ……!!!

法人成りしたら、速やかに行うべき税務行事

  • 個人事業の廃業届
  • 青色申告のとりやめ届出書
  • 所得税及び復興特別所得税の予定納税額の減額申請書
  • 事業廃止届出書(消費税の課税事業者の場合)

【POINT 02】 “役員報酬を決めるリミットを知っていますか?”

役員報酬の決定時期にもポイントがあるようで……
山内
先生
事業で得た収入は個人の所得を構成しますが、法人の場合は会社が得た収入は会社の所得になります。「自分(自然人)」とは切り離された、法律上の人格としての「法人」が存在するからなんです。社長の給料は、「役員報酬」として会社から支払われます。この「役員報酬」の決定時期についても注意点があります
成田
さん
え……。教えてください!
山内
先生
役員報酬を税務上のマイナス項目(損金)として扱うためには、事業年度の開始日から3カ月以内に決める必要があります。成田さんは4月設立だから6月までに、株主総会を開き、給与の月額を決定し、議事録を残しておきましょう。
また、基本的には月額同額で支給する必要があります。役員報酬を払いそびれたり、月額同額で支給しない場合には、法人の所得からマイナスできず、多額の法人税を支払わなければならない場合もあるので、気を付けてください。
成田
さん
僕自身は、役員報酬ゼロでもいいかなと思っていたんですけど、その分、法人税の支払いが多額になるなら考えないと……。
山内
先生
それだけでなく、成田さんという個人と法人の人格は別という意識をしっかり持って、それぞれのお財布をわけて考えましょう。役員報酬ではないかたちで、法人から個人にお金を貸すことが恒常的になってはいけません。金融機関から融資を受けるとき、その辺りはシビアにチェックされます。法人のお財布は、法人の事業に使用し、個人のお財布としっかり区分するという意識が大切です。
成田
さん
なるほど。役員報酬の金額は、一度決めたら変えられないんですか?
山内
先生
事業年度の開始日から3カ月以内に1度だけ変更できますが、それ以降は変更できません。たとえば、期末に多額の役員報酬を出せば、いくらでも法人税を安くできちゃいますから、利益調整による課税逃れを防ぐ観点からの、ルールでもあります。もし、期限を過ぎて役員報酬を変更したら、増額分は所得税の課税対象になるだけでなく、会社の法人税上のマイナス項目(損金)として認められない可能性があり、注意が必要です。また、経営の悪化など、例外として減額が認められる場合もありますが、条件が厳格で日常的に使える方法ではないことにも注意した方がいいでしょう。
成田
さん
それは、よく考えて自分の報酬を決めないと。
山内
先生
「定期同額給与」といって簡単には変えられないから、新米経営者のみなさんはよく迷われます。法人成りの場合は、個人事業の実績をもとに、法人成り後の売上や経費を予測し、ご自身の役員報酬をシミュレーションするといいでしょう。自分と法人、どちらのお財布も負担が積み重ならないような水準を見極め、ときには税理士や会計事務所に相談しながら金額を決めていくといいのがベストだと思いますよ。

【POINT 03】 “一大行事の「決算」と「年末調整」。ポイントを押さえましょう!”

経営者にとって、最も大切な税務行事ともいうべき決算の要とは?
山内
先生
年間の税務行事において、とくに重要なのが「決算」です。決算とは、少なくとも年に1回、決算書(貸借対照表、損益計算書など)を作成し、会社の経営成績や財務状態などを明らかにすることです。
成田
さん
会社の成績表といわれるやつですね。
山内
先生
決算の計算期間は、会社が決めた事業年度が対象になります。事業年度は通常1年としますが、成田さんは決算月をいつにしましたか?
成田
さん
決算月は3月です。なんとなく年度末できりがいいかな〜って。
山内
先生
それでは事業年度は、4月から3月ですね。決算書上の利益をベースに、法人税申告書などの税務申告書をつくることになりますが、その期限は決算期末から2カ月以内。3月決算の会社なら、5月末が期限になります。2カ月の間に決算書の整理や申告業務の準備をし、申告と納税を終わらせることが義務。ここに向けて1年間、帳簿の入力や仕事の取引の処理を進めるわけです。
成田
さん
うわー、プレッシャーだなぁ。
山内
先生
また、12月に行う「年末調整」も忘れてはいけません。年末調整は、毎月の給与額から源泉徴収した所得税の合計額と、その人が1年間に納めるべき所得税との差額を精算するもの。1年を通して、給与額や家族構成が変化すると控除項目も変動しますし、源泉徴収はあくまで仮の天引ですので、最終的に年額として納めるべき税額との間で差額が発生します。だから、所得税の差額を還付または徴収によって、通常12月に精算しなければいけないんです。個人事業主は確定申告で所得税の申告・納税をしますが、会社員は年末調整によって所得税の額を決めたり、差額の精算を行うんです。従業員を雇っている会社だけでなく、社長1人の場合も年末調整が必要(※3)。役員報酬として給与所得がありますからね。

※3 年末調整の対象者は、1年を通じて勤務している人や、年の中途で就職し年末まで勤務している人。ただし、1年間に支払うべきことが確定した給与の総額が2,000万円を超える人、災害減免法の規定により、その年の給与に対する所得税及び復興特別所得税の源泉徴収について徴収猶予や還付を受けた人は除く。

成田
さん
年末調整ってワードを知っているだけで、内容は全然知らなかった……! 重要な行事ですね。
山内
先生
また、1月末までに所得税や給与を記した「源泉徴収票」を作成し、税務署に提出。また、従業員に支払った報酬に関するまとめである「給与支払報告書」も1月末までに従業員の住む市区町村に出さなければいけません。給与支払報告書は、従業員の住民税を計算するために必要になるので忘れないようにしてください。これらの手続きが集中する12月から1月は、経営者や経理担当者、税理士や会計事務所は大忙し。成田さんの会社は3月決算だから、年末調整とは時期がかぶらないですね。
成田
さん
なんとなくだったけど、3月決算にしてよかったのかも……! でも、初めての年末調整が来る前に心構えができて安心しました。
偶然にも3月決算にしていた成田さん。それなのにこのドヤ顔!!!
山内
先生
主な税務行事だけでもこれだけあるので、少なくとも四半期に1回くらいは税理士や会計事務所と打ち合わせをすると、慌てずに手続きの準備や心構えができてよいかもしれません。
成田
さん
はじめての税務行事の数々、山内先生の教えを思い出しながら頑張って乗り切りたいと思います!
山内
先生
前向きに頑張ってくださいね。

年間を通してやるべき税務行事を理解し、より経営者としての責任感が増した様子の成田さん。次回は、起業で頭を悩ませがちな資金に関する内容をお届け予定です。ぜひチェックしてください!

山内真理(やまうち まり)

公認会計士・税理士。1980年生まれ。一橋大学経済学部卒業後、有限責任監査法人「トーマツ」を経て、2011年にアートやカルチャーを専門領域とする「公認会計士山内真理事務所」を設立。豊かな文化の醸成と経済活動は裏表一体、不可分なものと考え、会計・税務・財務等の専門性を生かした経営支援を通じ、文化・芸術や創造的活動を下支えするとともに、文化経営の担い手と並走するペースメーカー兼アクセラレータとなることを目指す。芸術文化活動に関わる人に法律的側面から支援を行う非営利の活動団体「Arts and Law」の理事、特定非営利活動法人「東京フィルメックス実行委員会」理事、東京芸術祭監事ほか。
 
公認会計士山内真理事務所/株式会社THNKアドバイザリー:https://yamauchicpa.jp/

成田龍矢(なりた りゅうや)

1994年生まれ。大学卒業後、人材事業会社に入社。スポーツ領域の人材事業やスポーツイベントや興行支援に従事。その後、大阪のクリエイティブ系のスタートアップ企業に転職。東京支社を設立し、ウェブ制作事業の営業やディレクターとして活動。2019年、独立してフリーランスのプロデューサーに。2021年4月、自身の会社「LON」を設立。

撮影/武石早代
取材・文/川端美穂(きいろ舎)

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税理士・山内真理×新米社長の華麗なる決算への道【3】「税務行事を制する者は、経営者の一大行事“決算”を制す!」

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