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りょかちの私を変えたお金のハナシ#06「人にやさしくなりたくて、お金の勉強を始めた女子大生の私へ」

りょかちの私を変えたお金のハナシ#06「人にやさしくなりたくて、お金の勉強を始めた女子大生の私へ」

エッセイスト・ライターとして活躍するりょかちさんが、“お金にまつわるエピソード”をお届けするこの連載。今回は、お金について学び始めた女子大生のころのハナシ。

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この連載でもお金の失敗について散々書いてきた私だが、驚くべきことに、実は大学ではファイナンスゼミに所属していた。

母校の名誉のために言っておくと、私が通っていた神戸大学は東京ではあまり知名度がなく、「神大出身」というとしばしば「神奈川大学?」と聞かれたりするが、関西では名門の大学である。商業大学を起源に持つ一風変わった国立大学で、関西では “京阪神(京大・阪大・神戸大)” の略称で難関大学として認知されており、なかでも私が通った経営学部は、商業大学の伝統的なDNAを受け継いでいることを誇りにしている、歴史ある学び舎である。

余談だが、時々Twitterで「果てしなく意識が高い」ということを語られたりもするのが弊学部でもある。確かに、神戸の新しいショッピングモールに入った店舗を語るにしても、ほかの学部の学生が「オープンセール行こ〜!」と話している中、「あのブランド、最近駅ナカ形態の店舗を増やしているよね〜」「神戸の店舗ばっかり増やしているの、ドミナント戦略(一極集中して店舗出店する戦略)だわ」などと当時から語っていた。本当にあった怖いJDの話だ。そういった環境だから、 “ジェットコースターを後ろ向きに走らせて” USJを立て直した森岡毅さんや、史上最年少で米系経営コンサルティング会社のA.T. カーニーの日本法人代表になった関灘茂さんのようなものすごいビジネスマンも時々輩出する。

余談が長くなってしまったが、そういった優秀な人が集まる環境で、ネットと雑誌が大好きで数字なんて大の苦手、どちらかというとマーケティング科目の方が得意だった私は、どういうわけだかファイナンスのゼミに入ったのである。そして無事、「りょかちはこのゼミのマスコットキャラクターだね」と同級生に言われるほどに愛嬌だけで1年半を乗り切ることとなった。

しかし最近、そんな自分がわざわざファイナンスゼミに入った理由にハッとすることがあった。ゼミ選考の面接で私はファイナンスを学ぶ理由として語ったのは、結局、お金に詳しくないと誰にも優しくなれませんから」という理由だったのだ。

テレビに出てるあの人も、自分の家族も、お金の使い方から人間性がわかる

経営学部で毎日 “お金” と“ビジネス” にまつわる授業を受けてはいたものの、当時自分はアルバイトくらいしかしたことがなく、今となっては授業の重要性を3割くらいしかわかっていなかったと思う。

そんな私がはじめてビジネスについて、ぼんやりリアルに感じたのは、父の仕事について本人から話を聞いたときである。父はとにかく「従業員の人には充分に待遇を良くする」ことにこだわっていると話していた。テレビでは、従業員満足度に投資したら売上が上がった企業と、事業を切り捨てた結果利益率が向上した企業が紹介されていた。

別にいろんな企業を比べてみて事業がわかった気になったわけじゃない。だけど、はじめて事業をやっている人がこだわりを語っているところを見て「会社で何にお金をかけて大事にするかも、人が決めているんだ」ということを、圧倒的に感じてしまったのだ。

どこかのリストラも、新規事業への投資も、誰かが決めている。

テレビに出ている成功者や父は、教科書でしか聞いたことがないお金の仕組みや使途について話していた。お金のさまざまな知識を生かして、ふたりとも適切な判断をしようとしていた。実際に、私が授業で習った知識は使われているようだった。

どんな決断の背景にも、知識がついてくる。知識はいつも、賢明な判断の味方だ。

世の中では、お金に詳しかったり、お金に対して知識が豊富な人でお金持ちな人を卑しく感じたり、「ずる賢い」と言ったりする。お金を多く持っていること自体、どこか悪者めいた視線を浴びる理由になるほどだ。なぜか私たちはあまりにも、お金ということに無知で慎ましく生きることを良しとしすぎているような気がしてならない。お金の知識を得たいと感じることも、人より多くお金を手元に残そうとすることも、お金をより得ようとすることも「がめつい」と言われやすい。

しかし実際は、お金に詳しくない人は、自分だけでなく他人を巻き込んで損をする。お金に詳しい人を嫌う人は、自分の無知が怖くて誰かをはねのけているだけなのだ。

もちろん、お金の知識だけですべてが決まるわけではないが、お金をうまく稼げていなければ、後輩におごることもできない。予算がなければ取引先に十分なお金を支払えない。お金の上手な使い方を知らなければ、従業員の待遇も適切な形で良くできない。よくわからずお金を使い込んでいると、大事なことにお金を使えない。老後のお金の準備ができていなければ人だけでなく家族も困る。

考えてみると、誰かを豊かにしてあげられる力を持つ人もまた、お金に詳しい人に違いないのである。真剣にお金に向き合うとき、私たちは自分を含めた誰かの人生を本気で良くしようとしている。

私はそれから、企業や個人の「お金の稼ぎ方・使い方」により意識を向けるようになった。そこにはセオリーがもちろんあるものの、その人や企業の考え方が多分に表れる。

私たちは自分の人生を経営している

「お金の知識」は、それによって自分や他人を豊かにしてあげられるパワーである。そんなことを思うとき、就活生のころに読んでいた『新装版 ほぼ日の就職論「はたらきたい。」』(東京糸井重里事務所)の一節を思い出す。

働いて自分でお金を稼いではじめて自分自身の経営権を手に入れたという感じ。(中略)それまでの自分って、なにか自分のことなのに、自分の下っ端として生きてるような感じなんだけど、働きだしてからは、自分が自分の社長、みたいな。どう稼ごうと、なにに使おうと、なにに投資しようと自分の勝手じゃないですか。だから、ぼくが就職したときに感じたうれしさって、「せいせいした」っていう感覚に近かったんです。(しりあがり寿)

引用元:ほぼ日刊イトイ新聞 「ほぼ日」の就職論。

企業を経営するように、私たちも自分の人生を経営している。私たちだって、自分という事業の経営者だ。そう考えると、人生は自由で、だからこそ、うまくプレイするためにお金の知識は有用で、それらは他人も自分も豊かにする。

お金は「スター・ウォーズ」の“フォース”そのものだ。ダークサイドに落ちれば他人を騙したりできるが、豊かさをもたらす力を併せ持つ。知識はいつも、人生の舵を取るときの追い風になってくれる。

「人にやさしくあるために、お金に詳しくなりたい」

若かりし自分はあまりにもピュアだけれど、お金について純粋に向き合う大切さに気づかせてくれた。

りょかち

1992年生まれ。京都府出身。神戸大学卒業。学生時代より、ライターとして各種ウェブメディアで執筆。「自撮ラー」を名乗り、話題に。現在では、若者やインターネット文化について幅広く執筆するほか、企業のコピーライティング制作なども行う。著書に『インカメ越しのネット世界』(幻冬舎)。朝日新聞、幻冬舎、宣伝会議(アドタイ)などで記事の連載も。

Twitter:https://twitter.com/ryokachii
note:https://note.com/ryokachii/

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