若手起業家を育成する澤田経営道場で、起業に向けて日々勉強に励む山下楓美香さん。前回はH.I.F.株式会社代表の東小薗さんから、経理を自分でやることの大切さを学びました。
今回は、前回に引き続きお金の話。起業にかかるお金の集め方に悩む山下さんが、7年間で累計35億の資金調達を支援した財務のプロ・株式会社One Purpose代表の明石知樹さんに、外部から資金を集める方法について相談します。
澤田経営道場とは?
株式会社エイチ・アイ・エスの創業、スカイマークの設立、ハウステンボスの再生などの実績を持つ、日本を代表するベンチャー経営者の澤田秀雄さんが2015年に設立した人材育成道場。澤田さんが経営者として学んだこと、経験したことを後進に伝え、世界で活躍できる起業家、次世代リーダー、政治家を生み出すことを目的とする。内閣府認定の公益財団法人SAWADA FOUNDATIONが運営。
澤田経営道場ホームページ:https://sawadadojo.com
「借入」or「株発行」? 自己資金以外にお金を集める方法
明石先生、起業にかかるお金って、みんなどうやって集めているんですか? そんなにたくさん集められるか自信がなくて……。
自分で貯めて用意する「自己資金」のほかに、外部から資金を集める「資金調達」がありますよ。検討してみたらどうですか?
資金調達、聞いたことはあります! どんなやり方があるのか詳しく教えてもらえますか?
資金調達は主に「デット・ファイナンス」と「エクイティ・ファイナンス」にわかれます。「デット」は借入のことで銀行などからお金を借りることで、「エクイティ」は、自社の株式を発行して投資家からお金を集める方法です。
ほかにもクラウドファンディングや補助金・助成金などいろいろありますが、今回はこの2つを紹介しますね。補助金・助成金については、後の回で詳しい先生が説明してくれるでしょう。
銀行などからお金を借りるのが「デット・ファイナンス」
まずは「デット・ファイナンス」について説明しましょうか。デットはさっき言った通り借入ですから、金融機関に融資を申し込んで貸してもらいます。借りたものなので、もちろん利子をつけて返さなくてはいけません。
金融機関としては貸したお金を返してもらえないと困るので、ちゃんと返してくれそうな人・会社かどうか審査をします。僕の銀行員時代のノウハウと独立してからの資金調達支援の経験からいって、審査のときに見られるポイントは3つ。それは「経歴」「自己資金」「事業計画」です。
お金を持っているかだけじゃなくて、経歴とか事業計画とかも見られるんですね!
そうですね。借りたお金で事業を展開して、そこで生まれた利益から返済するわけなので、ちゃんと事業の計画を立てているか、事業を成長させられそうな人かどうかはチェックされます。
なるほど。貸す方にとっては大事なところなんですね。
「経歴」は、その人がこれまでどんなところでどんな仕事をしてきて、どんな実績があるかですね。これから事業を展開しようとする領域の経験が全くない場合、審査はかなり厳しくなります。
たとえば飲食業をやるにしても、全くの未経験と経験があって仕入れや集客のノウハウがあるのでは、事業の展望が大きく左右されますからね。
「自己資金」は、その事業のためにどれだけお金を貯めてきたか。たとえば「起業するために5年間貯金してお金を貯めました!」っていう人だと本気度を感じますよね。
金額だけじゃなくて心構えみたいなところも見られるんですね。ちなみに、自己資金ってどのくらい貯めればいいものなんでしょう?
とくに決まりがあるわけではないんですが、借りられる金額は自己資金の2倍くらいまでが硬めなところなので、それを目安に考えるといいかもしれませんね。
「事業計画」はそのままですけど、借りたお金でやるつもりの事業の計画ですね。
デットの場合、なかでも重要なのは「経歴」と「自己資金」ですね。計画はこれからのことですけど、この2つはこれまで実際にやってきたことでしょう? お金を借りずに自分でできる範囲でやってきた実績があると、審査に通りやすくなる傾向があります。
自社株式を新たに発行するのが「エクイティ・ファイナンス」
次は「エクイティ・ファイナンス」について。自社の株式を発行して投資家に持ってもらい、その対価として資金を調達する方法です。
基本的には事業が成功すると思って応援してくれる投資家が株式を持ってくれるので、仲間づくりという見方もあります。
仲間ができて資金も調達できるなんて、一石二鳥ですね!
そう甘いものでもないんですよ。投資家は後々その株式が高く売れることによる利益を求めて出資しています。いつリターンが得られそうで、その頃に企業価値がどれくらいになっているかを説明し、「今うちの株式を持っておけば得ですよ」という根拠を提示できないと出資してもらうのは難しいでしょうね。
そうですか……。でも、安くはないお金を出してもらうわけですもんね。
エクイティでの調達は資金を借りるわけではないので、返済義務は基本的にありませんが、事業が上手くいかなかった場合に株式の買い取りを要求される場合もあります。
株を買い取ってお金を返さなきゃいけないってことですか?
そういうことです。ほかにもいろいろな条項が入っていたりするので、契約書はよく読んでおきましょうね。
あとは、持ち株比率にも気をつけなくてはいけません。株式を新たに発行すればするほど、自分が持っている株式が全体に占める割合は下がっていきますからね。
株式を持つということは、会社の経営に口を出す権利を持つということです。
たとえば、発行済み株式の3分の1超の議決権があれば、取締役の解任など重要な議案についての拒否権があります。過半数を持っていれば会社に関する大抵のことは決めることができるので、もし自分の持ち株比率が半分を切って、かつ誰かほかの1人が過半数の株式を持っていたら、もはや自分の会社ではなくその人の会社ですよね。
そもそも1株でも持っていれば株主代表訴訟を起こすことができますし、議決権を1%以上持っていれば株主総会に議案を提出する権利があります。エクイティでの調達は、権利と引き換えに資金を得ているんだと理解した上で行わないといけません。
株式はさまざまな要素が絡むので厳密な説明をするとかなり複雑になりますが、ざっくり説明するとこんな感じですね。
最初はいいこと尽くめに思えましたが、軽い気持ちで行うと痛い目に遭いそうですね。
そうですね。悪意のある人にほんの少しでも株式を持たれてしまうと、訴訟を起こされたり株主総会を乱されたりすることもあります。
誰に株式を持ってもらうかをよく考えないといけないですね。なんだか怖くなってきました。
そういう可能性も出てくるから注意しようね、というだけですよ。
応援してくれる仲間を見定めて株主になってもらい、「協力して事業を盛り上げていきましょう!」という風に持っていけるかどうかは、社長の器次第といったところですね。
株式の値段は「言い値」で決まる!?
ちなみに、株式を発行した場合の出資額って、どうやって決めるんですか?
企業の時価総額を計算する方法にはいろいろありますが、それらの方法で創業まもない企業の時価総額を評価するのはとても困難なんです。
だから事業領域や代表の経歴からの「予想」が評価の中心になります。結局は双方が合意すればそれで決まってしまうので、「言い値」で決まると言っても過言ではありません。
もちろん、常識から大きく外れた金額ならば出資してくれる投資家は見つかりませんし、見つからなければ下げていくしかありませんけどね。
業界にもよりますし、市場の状況や事業計画にもよります。4、5人の投資家にあたってみると、大まかな相場感がわかってくるんじゃないですかね。
あってないようなものなんですね……。
ところで、「事業計画」は借入審査のポイントにもありましたけど、エクイティでもやっぱり大事なんですね。
そうですね。借入では「経歴」「自己資金」が重要ですが、エクイティでは「事業計画」と「社長本人」が重要です。
「社長本人」っていうのは、「経歴」とはまた別なんですか?
この場合は、経歴も含めた「その人自身」のことですね。本人がその事業を命がけでやりたいって思っているのかどうかが大事です。
思いがある人はちょっと失敗してもくじけませんが、「儲かったらいいな~」くらいの気持ちでやっている人は儲からなかったらすぐやめてしまいますからね。
なるほど。投資家としてはリターンを得られるまでやめられては困るので、簡単にはくじけない人かどうかを見るんですね。
デットは「確実性」、エクイティは「成長性」重視の計画を!
デットでもエクイティでも出資者に事業計画を見てもらう必要があるんですけど、作り方のコツにちょっと違いがあるんですよ。
貸し主がお金を貸すのは利子を得るため、株式を買うのは値上がりによる利益を得るため、という話はさっきしましたよね?
いくら事業が大成功しても、利子の額は変わりません。つまり貸主にとって大事なのは、「事業が大成功したらどんなにすごいことになるか」よりも「ささやかな成功でいいから返済が確実に行われること」なんです。
一方、株主は事業が成功すればするほど株価が上がって儲かりますから「事業がどのくらい大きくなるのか」を重視します。
そうです。だから、事業計画は「銀行向け」「投資家向け」「自社向け」に作り分けるとよいと思います。
あくまで未来のことなので、いろいろなパターンで試算するのは問題ありませんよ。過去の数字を変えてしまったら大問題ですけどね。
なるほど~。それってやっぱり、銀行向けには堅実で無茶しない感じの計画を出す、みたいな感じですか?
そうですね。社内向けの目標の数字を100とした場合、銀行向けの数字はその7~8割くらいで作って、それでも返済に支障ないくらいの利益は確保できることを示すとよいと思います。
逆に投資家向けは、可能性のある数字として120くらいで作るとよいでしょう。「強力な営業パートナーが見つかった場合」という仮定で150くらいのパターンを作ることもあります。
そのくらい“跳ねる”事業計画でないと、お金を出してもらいにくいんですよね。
借入先や出資してくれる人はどう探す?
借入先や出資してくれる投資家さんって、どうやって探したらいいんですか?
借入の場合、まず信用金庫や信用組合を回ってみるといいと思います。地域を回って積極的に創業期の企業や若手起業家の支援をするのが彼らの役割なんで。
いきなりメガバンクを回るより、そういうところにお願いしてみるのがいいんですね。
エクイティの場合、スタートアップと投資家を結びつけるプラットフォームもありますが、一番いいのは誰かの紹介ですね。たとえば、エクイティで出資を募ったことのある先輩経営者とか、起業家仲間とか。
あとは、僕みたいにベンチャーの支援をしている側の人間や、会計士などの「お金持ちを知っていそうな人」をあたってみるのも手ですね。
お金持ちを知ってそうな人……身近にいるかなぁ(笑)。
ここで例えば東証1部上場企業の社長のようにネームバリューと社会的信用のある投資家とつながることができると、「あの人が投資しているなら」ということで後々の資金調達にも影響するので、人脈づくりはとても大事なんですよ。
自信がなくても、まずは臆せずお願いしてみるべし!
資金調達についてよくわかりました。ありがとうございます!
でも私は「経歴」「自己資金」「事業計画」のどれにも自信がなくて……。
出資のお願いをして断られてもペナルティがあるわけではないので、積極的に申し込んでみればいいんじゃないですかね。
金融機関をいくつも回ってみるとか、有名な起業家の人にプレゼンして本気度や人柄を見てもらうとか。
ある金融機関では融資を断られても、別の金融機関で積極的に一生懸命やってくれる担当者と出会うことで融資が通ることもありますしね。今回紹介した2つがダメならばクラウドファンディングもありますし、家族や友人に頭を下げてお金を出してもらう人もいます。
本当にやりたかったらそれぐらいのことは覚悟しないといけないし、逆にそこまでの覚悟が決まってないんだったら、もしかしたら起業自体やめておいた方がいいかもしれませんね。
ここでもやっぱり起業への「意志」が問われるわけですね。泥臭くやってみます!
外部から資金を集める「資金調達」の主な2つの方法を学んだ山下さん。地道に取り組んでみる覚悟も決まったようです。次回は株式会社ユーリア代表取締役の水野将吾さんに、非エンジニアの起業家がITサービスを立ち上げる際のポイントと注意点をお聞きします。
明石 知樹(あかし ともき)
2007年より、りそな銀行にて数百社の資金調達・運用を中心とした財務コンサルに携わる。2015年に株式会社Co-creating partnerを設立。2020年に事業承継し、株式会社One Purposeを設立。財務コンサルタントとして、11社の財務顧問を兼任している。資金調達サポートの実績は、7年で累計35億超。2019年からは卓球のプロチームである琉球アスティーダスポーツクラブ株式会社に上場準備のための社外取締役として参画。2021年3月にスポーツクラブとして日本初の上場を達成した。
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取材・文/内島美佳