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DG Daiwa Venturesの渡辺大和に聞く、冬の時代を乗り切る世界が注目するスタートアップ5社とその潮流

DG Daiwa Venturesの渡辺大和に聞く、冬の時代を乗り切る世界が注目するスタートアップ5社とその潮流

各業界に特化したキャピタリストから、日本と世界を代表する100社のユニコーン企業になり得る注目のスタートアップを先取りでピックアップする本企画。今回ご登場いただくのは、国内外のスタートアップにグローバル投資を行うDG Daiwa Venturesのマネージングディレクター・渡辺大和さんです。

ここ数年活発に行われていた資金調達環境が昨年末から陰りが見えはじめ、「スタートアップ冬の時代」ともいわれる今、それを乗り切る手段はあるのでしょうか。国内外のスタートアップ動向をよく知る渡辺さんに、そんな率直な疑問をぶつけつつ、グローバル投資のトレンドや投資先の選出ポイントをお聞きします。そして国内外の注目のスタートアップも伺い、これから世界を席巻する日本発のユニコーン企業像を探ります。

DG Daiwa Venturesとは?

デジタルガレージと大和証券グループが合弁で2016年に設立したベンチャーキャピタル(VC)※1。国内外10社以上の機関投資家※2や事業会社から、累計約200億円の運用資金の出資を受けている。投資のスペシャリストと次世代技術の専門家を有するファンドであることを強みに、国内外のスタートアップに幅広く投資。現在投資先のうち3社がユニコーン企業に成長している。


※1 未上場のスタートアップ企業に出資を行う投資会社のこと

※2 顧客から預かった資金を株式や債券などで運用・管理する大口の法人投資家のこと。一般的には、生命保険会社や損害保険会社、信託銀行、普通銀行、信用金庫、年金基金、共済組合、農協、政府系金融機関などを指す

世界のキャピタリストから見た、日本のスタートアップの現在地

DG Daiwa Venturesのマネージングディレクター・渡辺大和さんに、海外のスタートアップへの投資や、日本のスタートアップに期待することをお聞きします! 
おかねチップス編集部
早速の素人質問で恐縮ですが、グローバル投資ってどうやって行うものなんですか?
渡辺
さん
私たちDG Daiwa Venturesの場合、著名投資家の方々と一緒に投資することを戦略として掲げています。

月に1回、セコイア・キャピタルやグーグル・ベンチャーズ、タイガー・グローバル、アクセルといったグローバルの著名なVCとキャッチアップミーティングを行い、成長が期待できるスタートアップに一緒に投資していくスタイルをとっているんです。
おかねチップス編集部
セコイア・キャピタルやグーグル・ベンチャーズ、タイガー・グローバル、アクセルって、そんなにすごいんですか???
渡辺
さん
そうなんです。たとえばセコイア・キャピタルはアメリカの主要IT企業といわれる「GAFA(ガーファ)」のうちGoogleやAppleを育てたVCともいわれる名門なんですよ。

私たちは、スタートアップが世界で活躍するためには、VCなど投資家の支援が重要だと考えています。ちなみに、セコイア・キャピタルとはすでに3件の投資を一緒に行っています。
おかねチップス編集部
そんな名門VCたちと手を組めるDG Daiwa Venturesさんって、相当すごいってことですよね。でもどうして、一緒に投資活動することになったんですか?
渡辺
さん
ありがとうございます(笑)。
実は、海外の著名VCは日本のスタートアップに投資したいと思っているんですよ。ただ、言語などの壁があってなかなかそこまでたどり着けない。私たちのメンバーは全員バイリンガル以上で、海外勤務経験があったり、海外大学・大学院を卒業しているため、日本のスタートアップの情報を正確に彼らに伝えることができるんです。その代わりに海外の情報もいただいていてWin-Winの関係が築けています。そういう意味で、DG Daiwa Venturesは、結構特殊なポジションを確立している会社なのではないかと自負しています。
DG Daiwa Venturesは、世界の投資家たちとのネットワークを構築している
おかねチップス編集部
海外のVCからも、日本のスタートアップって注目されているんですね。
渡辺
さん
おっしゃる通り。これまでも数々のスタートアップに投資し、世界で戦えるユニコーン企業に育ててきた彼らは、日本人が誇る細やかな技術力などに注目しているように感じます。

日本とアメリカにおけるスタートアップへの投資金額は約100倍違うという調査もありますが、アメリカの名門VCたちが日本のスタートアップに投資することで、世界で戦えるようなユニコーン企業を国内からも生み出す可能性があると思います。

3〜5年先の未来を見据えて、スタートアップに投資

渡辺さんの投資先選びのポイントとは?
おかねチップス編集部
やっぱり起業家が一番気になるのは、キャピタリストたちがどう投資先を選定しているかです。渡辺さんはどうやって投資先を選んでいるんですか?
渡辺
さん
ITに関連する企業が盛んに設立されたインターネット黎明期は、たまたま知り合った起業家へ気軽に投資するなんてことも多々あったと思います。しかし、今は投資家間でも起業家でも競争環境が激しくなっているので、起業自体が珍しかった時代とは違って、投資家と起業家のマッチングが重要になってきており、投資先を丁寧かつ慎重に選んでいるキャピタリストが多いと思います。 

だから、私たちもこれまで以上にしっかり投資判断をしなければならないと考えていて。私の場合は、チームはもちろん外部の意見も積極的に取り入れながら、マーケットの状況やタイミングも見図らいながら投資先を選んでいますね。
おかねチップス編集部
では、具体的に起業家や事業のどんなところを見ているんですか?
渡辺
さん
私たちVCが見ているのは、3~5年先くらいの未来です。というのも、ファンドの運用期間は10年+2年が一般的ですが、その場合最初の5年間が投資期間になっているんです。

その点を踏まえ、投資を実施してから3~5年くらいという限られた時間やリソースの中で、大きな事業成長が見込めるビジネスなのか、経営陣の交渉力・実行力・周りを巻き込んでいく力などを注視しています。
おかねチップス編集部
なるほど。渡辺さんはご自身でも起業経験があるそうですね。今はVCという立場に変わりましたが、やはり当時とは投資の状況は違いますか?
渡辺
さん
そうなんです。今から10年以上前の大学在学中に起業し、かつては私も起業家だったんです。いろいろな投資家さんたちと会って投資してもらおうとしても、融資の交渉に近いコミュニケーションや数字の担保を必要とされ、「いつ黒字化するのか?」「いつ返済できるのか?」と詰められたことも(苦笑)。
おかねチップス編集部
それは大変ですね……。
渡辺
さん
でも今はそういう時代とは違って、投資家が多様化したことによって、求められるレベルも上がっています。だからこそ、逆にスタートアップと投資家の最適なマッチングに時間はかかるのは仕方ないこと。そのため私たちはチームで議論を尽くしますし、投資するまでに最低でも2回は起業家さんとお会いしますよ。
おかねチップス編集部
えっ、じゃ私たちも次に渡辺さんに会ったら投資してもらえるんですか(笑)? 
渡辺
さん
事業についてたっぷりとお話を聞かせてもらいますよ(笑)。冗談はさておき、DG Daiwa Venturesでは1社への投資金額1~3億円を中央値にし、1~3カ月ほどかけて投資するかどうかを決めていきます。
おかねチップス編集部
ここ数年、資金調達のマーケットは活発でしたが、昨年末ごろから市場全体の調達金額が落ち込んでいるといわれていますよね。「スタートアップ冬の時代」ともいわれる今、DG Daiwa Venturesさんの投資活動はどうなってますか?
渡辺
さん
資金調達の落ち込みはニュースなどでも私も目にしますが、DG Daiwa Venturesではそんなことはなく、これまでと変わらず通常のペースで投資活動を行っていますよ。

DG Daiwa Venturesの渡辺さんが注目世界の未来を担う国内外のスタートアップ5選

ここからは、グローバル投資を行い、数々の国内外のスタートアップを見てきた渡辺さんに、国内外問わず、世界標準で注目のスタートアップ5社をそのポイントとともにお聞きします。

Satoshi Energy/アメリカ・テキサス

2018年に創業した、再生可能エネルギーで暗号資産の供給を行う会社。ビットコインなどの暗号資産のマイニング※3には、莫大な電気代がかかるもの。そこでSatoshi Energyでは、過剰に生産された再生可能エネルギーに着目。再生エネルギーの市場価格が下がるタイミングを見える化して、再生エネルギー事業者とマイニング事業者をマッチングさせている。

※3 暗号資産の承認のための作業に協力し、その報酬として新たに発行される仮想通貨を手に入れること

渡辺
さん
世界中がSDGsやサステナブルに取り組む今、電は世界的なキーワードともいえます。その中で需給バランスの問題で活用されていない再生エネルギーをマイニング事業者に適切に繋ぐことで、たくさんの電力を消費するという暗号資産のイメージを一新。環境に負荷をかけない手段を提供できていると思います。

現在、Satoshi Energyでは採掘したビットコインを電気代として使える仕組みを作っているので、今までになかった面白い循環サイクルにも期待しています。

Limbix/アメリカ・サンフランシスコ

青少年のうつ病をはじめとした精神疾患を、アプリでケアするデジタルセラピューティクスを提供する。精神疾患に罹患する半数以上が14歳までに、4分の3が25歳までに発症するといわれ、児童や青年へのサポートが重要視されているなか、Limbixは12〜25歳までの若年層に特化。AIがカウンセラーとなり、認知行動療法を行い、若年層のケアを実現させていく。

渡辺
さん
デジタルセラピューティクスは、アメリカでさまざまなユニコーン企業が生まれている注目の領域です。とくにコロナ禍に入り、学校が閉鎖されたり、人とのコミュニケーションが取りにくくなった今、日本でも重要なソリューションになっていくと予見しています。

TURION SPACE/アメリカ・サンフランシスコ

役割を終えた衛星など“スペースデブリ”と呼ばれる宇宙ごみを、安全に除去したり、軌道修正することをミッションに掲げている。宇宙ごみとなってしまった衛星は、約25万個あるとされていながらも、持ち主が存在し、位置もトラッキングできるのが特徴。そこでTURION SPACEでは、現役で活躍している衛星とぶつかって破損させないためのプロダクトを開発。スペースデブリとなった衛星の軌道を修正したり、安全に除去できるシステムを作っている。

渡辺
さん
TURION SPACEのCEOは、イーロン・マスク氏が創業した宇宙関連企業「スペースX」出身のエンジニア。アメリカには時間軸の長い宇宙関連企業が多いなかで、TURION SPACEは3〜5年先に実現しそうな現実的なビジネスを行っているのがポイントです。

Capchase/アメリカ・ニューヨーク

サブスク型ビジネスなどを展開するSaaS企業に対しての新たな資金調達のプラットフォームを提供。SaaS企業は将来の売り上げから一定額を返済する契約を結ぶことで投資を受けられ、キャッシュが先に入手できるので将来を見据えた事業投資やマネジメントが実現できる。

渡辺
さん
さらにCapchaseは、融資だけでなく投資への取り組みも行っています。 現在、アメリカで投資家とSaaS企業をマッチングさせ、資金調達方法を多様化させるモデルが急成長しています。そんな中、CapchaseはSaaS企業の月の売上や収益を記載したダッシュボードを制作。投資家に公開し投資判断の参考基準を提供しているのも、Capchaseならではの取り組みです。

フェアリーデバイセズ/日本

音声処理技術やAIを利用したソリューションを開発&提供。なかでも首掛け型ウェアラブルデバイス「THINKLET」は、産業現場をはじめ、さまざまな業界での現場DXを支える。現場の作業者がTHINKLETを身につけると、リアルタイムでクリアな音声と映像を本部に届けられ、本部から遠隔での作業支援を行うことができる。

渡辺
さん
世界の大手企業からもラブコールを受けている国内注目のスタートアップです。これまで現場では、作業する人と指示する人の2人が必要でしたが、現場と本部(熟練技能者など)を繋ぐTHINKLETの誕生によって、現場には作業する人のみで完結するように。建設、工事など現場はどこにでもあるし、フェアリーデバイセズさんの高い技術力は、海外でも高く評価されており、今後一層成長が期待できると感じています。

世界を目指すスタートアップ×VCで、日本からユニコーン企業を輩出

海外のスタートアップに精通する渡辺さん。日本のスタートアップとしっかりと手を取り合い、ユニコーン企業への成長の一助になることを目指しているそう
おかねチップス編集部
ヘルスケアから再生可能エネルギー、宇宙ビジネスまで、アメリカにはさまざまな事業を行うスタートアアップがあるんですね。とても勉強になりました!
渡辺
さん
比較的、テッキーな分野のスタートアップを中心にご紹介してまいりましたが、どの企業もこれからどんどん成長していくと思いますよ。
おかねチップス編集部
それは楽しみですね。国内のスタートアップもご紹介いただきましたが、渡辺さんがこの先、日本のスタートアップに期待していることはありますか?
渡辺
さん
VCの私たち自身も、海外の著名VCとの信頼関係を作り、日本発のグローバルカンパニーを目指していますが、同じように海外の市場を狙える仲間が増えたらいいなと思っています。この先もグローバル投資のノウハウやリソースを還元していけるような仲間と手を取り合って国内にイノベーションを起こしていけたら。
おかねチップス編集部
渡辺さんたちVCとスタートアップが手を組むことで、世界で活躍する日本のユニコーン企業が続々と誕生するかもしれませんね。渡辺さん、今日はありがとうございました!
渡辺
さん
こちらこそ、ありがとうございました!

渡辺大和(わたなべ やまと)

DG Daiwa Venturesマネージングディレクター。
大学在学中に共同創業した会社を売却後、株式会社電通入社。流通、保険、通信、自動車、官公庁、自治体のデータ活用、デジタライゼーション推進業務に従事。以後、経営企画局にて事業戦略策定、コーポレートベンチャーキャピタル・電通ベンチャーズでの投資業務を担当する。4年間、ML/SaaS/Media/xR/blockchain領域において、スタートアップのソーシングや成長戦略に携わる。シリコンバレー赴任、海外投資先の日本進出支援、投資先取締役、株式会社電通グループ・マネージャーを経て、2020年9月よりDG Daiwa Venturesに参画。

撮影/武石早代
取材・文/おかねチップス編集部

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