小商いをする人に向けて経営のガイドを行う税理士の松崎怜先生が、アパレルブランドのオーナー・鈴木香澄さんにフリーランスに必要なメソッドを教えるこの連載。第8回は、2月15日からはじまる確定申告の章に突入! 松崎先生の手ほどきのもと、鈴木さんが電子申告・納税システム「e-Tax」を使うための準備を行います。
■連載
第1回「独立したら依存先を増やすべき」
第2回「フリーランスには退職金がない。法人や会社員との違いを理解しよう」第3回「確定申告はゴールじゃない。ビジョンに向かう過程のマイルストーンと心得よ」
第4回「独立の手続き&役所とのコミュニケーション術」
第5回「はじめての経理。ヒト・モノ・カネを整理し、筋肉質なフリーランス経営を目指すべし!」
第6回「はじめての会計。小難しい複式簿記は会計ソフトに頼るのが正解!」
第7回「2022年1月にこっそりスタート!? 電子帳簿保存法を知っていますか?」
本日のレジュメ
「いよいよ確定申告へ。まずは『e-Tax』で電子申告するための準備を!」
青色の確定申告は、最大65万円の青色申告特別控除が受けられる「e-Tax」での電子申告を選ばない手はない。「e-Tax」を利用する際には事前準備が必要でその方法はさまざまだが、おすすめはWEB版の「e-Tax」でマイナンバーカードを使ってアカウントを登録する方法。登録までの道のりはやや険しめだけど、その難所を超えたら「e-Tax」で受けられるメリットがたくさん!
目次
【CHECK 01】「e-Tax」登録の事前準備には、パソコン環境の把握とマイナンバーカードを!
鈴木さん、ついに確定申告の回に突入です。通常、税務署での確定申告期間は2月16日〜3月15日なので、そろそろ準備をしていただきたいと思っています。
ついに来ちゃいましたか〜(泣)。改めて確定申告の概要を知りたいです!
確定申告は所得税という個人の税金を納めるための手続きのことで、1月1日〜12月31日の期間の所得を計算し、翌年に申告します。だから今回の確定申告は、2021年1月1日〜12月31日までの申告になりますね。
1年間事業で稼いだ分の所得にかかる税金を納めることなんですね。それで確定申告の準備って、何をするんでしょうか?
電子申告・納税システム「e-Tax」で確定申告をするため、事前準備をしていただきます。
噂でよく耳にする「e-Tax」ですね! そもそも「e-Tax」ってなんなんですか?
かつて確定申告は税務署に出向いたり、書類を送って提出する必要があったんですが、2004年から導入された電子申告・納税システム「e-Tax」を使うことで、インターネットで確定申告書を作成・提出できるようになったんです。
おうちにいながら確定申告ができるようになったんですね。忙しいフリーランスの人にとっては、めちゃめちゃよい制度のように思えます!
はい。2021年分以降の青色申告で最大65万円の青色申告特別控除を受けるには、「e-Tax」での電子申告、あるいは電子帳簿保存が必須になったんです。だから僕も「e-Tax」で確定申告するのをおすすめしているんですが……。
フリーランスの方から、「e-Tax」で電子申告するための事前準備が難しいという声を多くいただいていまして。僕たち税理士が電子申告で確定申告をするフローとは違うため、今回お伝えする「e-Tax」の準備に必要な流れを実践レベルで理解・把握するのに、僕も3日くらいかかりました。
えっ。先生でもそんなに……。ぜひ、伝授してください!!!
お任せください!
「e-Tax」を始める事前準備として、まずはパソコン環境の確認が必要になります。
「e-Tax」にはダウンロード版とWEB版があるのですが、ダウンロード版は2022年1月時点ではWindows OSのみに対応していて、Mac OSには非対応です。WEB版であればMac OSも対応可能です。
ご自身のパソコンが国税庁が推奨する環境に該当するかどうかを、ホームページなどで確認しておくといいと思います。
げげげ。自分が使っているパソコンの環境もちゃんと知っておく必要があるんですね。
それからマイナンバーカードも取得しておいたほうが良いです。これはデータ作成者の特定や、データ改ざんを防ぐための「電子証明書」という役割になります。
あと、利用者識別番号の取得が必要です。利用者識別番号とは、電子申告をするために必要な16桁の個人の識別番号のことなんですが、これが最も難所かもしれません。
利用者識別番号の取得方法としては、下記のように7つほどあります。
利用者識別番号の取得方法
(1)WEBからマイナンバーカードを使ってアカウントを登録する
(2)WEBから利用者識別番号を取得する
(3)マイナポータルの「もっとつながる」機能からe-Taxを利用する
(4)WEBからID・パスワード方式の届出を作成・送信する
(5)税務署に行って、ID・パスワード方式の届出を作成・送信する
(6)書面で利用者識別番号を取得する
(7)税理士に依頼し、利用者識別番号を取得する
「(7)税理士に依頼し、利用者識別番号を取得する」希望です(笑)!
そりゃそうですよね(笑)。だけど税理士がいない前提でやるなら、「(1)WEBからマイナンバーカードを使ってアカウントを登録する」がおすすめです。鈴木さんのパソコンはMac OSなので、今回はWEB版の「e-Tax」でチャレンジしていただきます。
【CHECK 02】実録!最大の難所「e-Tax」登録までの道
WEB版の「e-Tax」でマイナンバーカードを使って利用者識別番号を取得するには、パソコンの場合、マイナンバーカードを読み取るためのICカードリーダライタ、または、マイナンバーカードの読み取りに対応したスマートフォンが必要になります。
今回は僕が持っているICカードリーダライタで試してみましょう。まずは「パソコンにICカードリーダライタのドライバをインストール」しましょう。
そうしたらSafariで「e-Tax」の
「受付システム ログイン」画面に進み、マイナンバーカードでログインに進んでください。OSやブラウザなどの環境チェック結果画面が表示されると思いますが、どう表示されていますか?
OSとブラウザが○で、Safari機能拡張が×となっています。
Safariの機能拡張を利用可能な状態にする必要がありますね。次へのボタンをクリックし、Safari利用者向けの事前セットアップをダウンロードし、Safariを落としてからインストールをしましょう。
これができたら、もう一度「受付システム ログイン」画面のマイナンバーカードでログインしてみてください。これでSafari機能拡張が○になっているはずです。
ええっと、さっきと同じ画面です。OSとブラウザが○で、Safari機能拡張が×……。
えっ、本当ですか。おかしいな……。
Safariのタブを開いて環境設定を見ると、「e-Tax」ソフトが入っていませんか?
だったら設定に間違いはないはずなので、なおさらおかしいですね……。
う〜ん、ではパソコンを再起動してみましょう。こういう時は再起動です!!!
再起動
↓
「e-Tax」の「受付システム ログイン」画面のマイナンバーカードでログイン
↓
↓
↓
そうしたらもう一度、Safariのタブを開いて環境設定で「e-Tax」ソフトを見てみましょう。
拡張機能を追加するためのチェックボックスに、チェックが入っていませんね(笑)。
こんな罠、ありますか(笑)。チェックを入れてまたログイン画面に遷移しますね。
↓
↓
↓
↓
↓
\テッテレ〜!!!/
よかった〜。
ここでやっとICカードリーダライタの出番となります。画面の「ICカードリーダライタで読み取り」ボタンをタッチしてください。
ICカードリーダライタにマイナンバーカードを挿入すると、パスワードの入力画面が表示されます。
そしたら数字4桁の利用者証明用パスワードを入力しましょう。3回間違えるとロックがかかってしまうので、注意してくださいね。
ここでようやく利用者識別番号取るため、個人情報を入力していきます。納税用確認番号の設定が必要になるので、お好みの6文字で設定してください。
これで利用者識別番号を発行されます。発行された利用者識別番号は、写真でも出力でも結構ですので、必ず保存しておきましょう。
はい! それにしても長い道のりでした……。絶対1人じゃできなかったです。
この後のフローとしては電子署名の発行が必要なのですが、それはマイナンバーカードを使っているので、自動的に発行されます。これで事前準備は完了です!
あとは日々の出入金を粛々と会計ソフトに入力しておけばOKです。
ふぅ〜。これで「e-Tax」の事前準備は完了ですね。
【CHECK 03】税務署に行かなくても楽々申請。「e-Tax」を利用するメリットとは?
ところで先生、めちゃくちゃ苦労してまで「e-Tax」に登録するメリットって、青色確定申告の65万円控除以外に何かあるでしょうか?
所得税以外の消費税といった税金の申請のほか、電子納税、申請・届出などの提出もできますよ。
私、最近引っ越したんですが、住所変更などの届出もここでできるってことですか?
税務署に行かなくてもいいし、郵送しなくてもいいのはめっちゃ便利ですね。
実はほかにもメリットがあって、医療費控除の源泉徴収票や生命保険料控除の証明書などの原本書類の提出・提示を省略できたり、通常の確定申告開始2月16日より前の1月中旬より確定申告ができたりします。
へぇ。「e-Tax」には確定申告以外にも、いろいろとメリットがあるんですね。設定までのハードルは高めですが、「e-Tax」の仕様に慣れれば、税務署に出向く手間も解消されるし、自分のタイミングで申告できるのはいいですね!
先生、今日はありがとうございました〜!
はい! 「e-Tax」を使うための準備設定が成功して、僕もホッとしました。
「e-Tax」で確定申告を行うための事前準備が無事に完了した松崎先生&鈴木さん。ひと安心したのも束の間、次回はいよいよ確定申告の方法について。どうぞお楽しみに。
松崎怜(まつざき りょう)
税理士、創業コンサルタント、財務コンサルタント。税理士事務所ASCOPE 代表、株式会社GO CFO、株式会社&FINANCE 代表、Doppio合同会社 共同代表。1983年、神奈川県生まれ。一児の父。「小商いと、社会を彫刻する」ことをミッションに、小商いがずっと続くように、経営のガイドを行っている。現在は、自身の「クリエイター」「フリーランス」「独立開業/ 創業」といった経験と実践をもとに、小商いの持続可能性を自分ごと化して探求している。
ASCOPE:
https://www.ascope-tax.net
鈴木香澄(すずき かすみ)
1984年生まれ。大学卒業後、スウェーデン発のクリエイティブエージェンシー「GREAT WORKS(グレートワークス)」に入社し、ディレクターとして活躍。2019年に「ロンドンに住むLilly Lee(リリー リー)ちゃんが愛用している服」をコンセプトにしたカジュアルブランド「Lilly Lee(リリー リー)」を創設し、2020年1月より本格始動。
Lilly Lee:
https://lillylee.theshop.jp
撮影/武石早代
取材・文/おかねチップス編集部