お金に関する悩みを抱えたフリーランスや若手経営者が扉を叩く、「チップスくんのお金の相談室」。お金まわりの疑問からリアルに困っているお悩みまで、「おかねチップス」のどSマスコット・チップスくんがわかりやすく指南します。
今回の相談主は、会社員として働く傍ら「オモコロ」などのWEBメディアで、ライターをしているみくのしんさん。二足のわらじを履く彼が、毎年この時期になると頭を悩ますのが「確定申告」について。その疑問や不安をチップスくんが解消します!
相談【1】確定申告って何のためにするんですか?
ご自身のYouTubeチャンネルを大画面で楽しむみくのしんさん。そこに突如現れたのは、神出鬼没のチップスくんです。
あっはははは! 大画面で見る俺、やっぱおもしろいなぁ〜。
うわぁ、コワーーーっ!!! っていうか、呼んでないし。おたくはどちらさまですか?
ボクはチップスくん。お金にまつわるお悩みや不安を解決する、みんなの天使的な存在だよ。
なんかキミが悩んでるって聞いて、やって来たんだけど? まずは名前から聞かせてよ。
強引だな、チップスくん。うーん、確かにお金については、緊急で悩んではいる。
じゃ、ボクに任せてよ。四の五の言わずに、早く自己紹介して!
あ、はい(素直)。会社員をしながら副業でライターをしているみくのしんと申します。お笑い芸人を目指してましたが、夢半ばで諦めサラリーマンに転身し、芸人時代のひょんな繋がりから副業でライターをはじめて5年になります。
元お笑い芸人なんだ! 異色の経歴だね。そんで悩みって何?
そろそろ確定申告の時期じゃないですか。副業を始めてから毎年一応、確定申告はしているんですけど、いまだに攻略できなくて……。
経費の申告ミスとかで損だけはしたくないけど、テストじゃないから返答があるわけじゃないし。受理されていればオッケーってことでいいんですか?
う〜ん、そうとも言い切れない。そもそも、なんで確定申告ってする必要があるか知ってる?
じゃ、まずそこから解説するね。確定申告は、“所得税の精算”をするために行うものなんだ。「所得税」っていう個人の所得に対して税金をかけるルールがあって、1年間に得た収入(利益)を合算して、「昨年これだけ稼ぎました!」って国に報告しなきゃいけない義務があるんだよ。
所得税の確定申告とは?
1年間の所得(売上−経費)にかかる税金を算出し、国に納めるべき税額を報告する手続きのこと。1月1日~12月31日分の所得と納税額を計算し、原則翌年の2月16日~3月15日に税務署に報告・納税する。正式には、所得税及び復興特別所得税という。
ただ、会社員に関しては基本的に会社からの給料しか収入がないから、個人で確定申告はしなくてオッケー。その代わりに会社が年末調整をして終わりにしますよってことになってるんだ。
でも、みくのしんさんみたいに会社の給料以外に収入がある人は、その分、個人で確定申告をしなければならない。そのトータルの収入で、その人の所得税の金額が確定するんだ。
あの〜、確定申告するとお金が戻ってくるじゃないですか。
それってどういうことなんですか? 周りに聞くと「払い過ぎたお金が戻ってくる」って言うけど、僕払い過ぎた記憶ないんですが?
え、それ笑うところ!? 僕、なんかおかしいこと言ってます??
ごめんごめん(笑)!
それはね、わかりやすく言うと所得税って、前払いしてるからなんだ。みくのしんさんがライターの仕事で原稿料をもらうとき、その原稿料は源泉徴収をされていて、あらかじめ所得税を引いた金額が振り込まれるわけ。
100万円までは税率10%ぐらいが引かれていて、最終的にそれを集めて合算して確定申告をするんだけど、そこで計算した時の税率が当初引かれていた10%程度の税率より低ければ、その差額が戻ってくるっていう仕組みなんだ。
ちなみに、その年の所得金額によって所得税率は変動するよ。
例えば1年間で100万円の副業の収入を得たとすると、ざっくり10万円が引かれているんだ。100万円の売り上げなのに、90万円しか入金されなかった。それは、取引先が代わりに所得税を国に納めてくれているってこと。
でも、確定申告したら最終的に所得税率は5%だった。ということは、実際に払う所得税は5万円でよかったことになるよね。でも先に10万円払っちゃってるから、確定申告後に差額の5万円が還付されるんだよ。
それはわかりやすい! チップスくんって、なかなかすげぇじゃん。
それなら絶対、確定申告したほうがいいですね?
ところが逆に源泉徴収をされない人は、確定申告したときに5万円払うことになる。そういう人はお金が戻ってくるっていう概念はないよ。
ほうほう。つまり、源泉徴収されている人は確定申告しないと損ってことですよね。
まぁ、確定申告しないと払い過ぎてるって可能性はあるよね。もちろん追加で払う人もいるから、その場合は申告しないと後からお咎めがくるから注意しないとね。
所得税の税率
課税される所得金額 | 税率 | 控除額 |
---|
1,000円〜1,949,000円 | 5% | 0円 |
1,950,000円〜3,299,000円 | 10% | 97,500円 |
3,300,000円〜6,949,000円 | 20% | 427,500円 |
6,950,000円〜8,999,000円 | 23% | 636,000円 |
9,000,000円〜17,999,000円 | 33% | 1,536,000円 |
18,000,000円〜39,999,000円 | 40% | 2,796,000円 |
40,000,000円〜 | 45% | 4,796,000円 |
相談【2】請求書や領収書は、申告後も保管しといたほうがいい?
何度も確定申告しているけど、毎回謎なのが“経費”。1本の記事を書くのにかかったお金を、どこまで経費として認められるのかあやふやなまま、山のような領収書を処理して申告しているんですが……。
還付金が返ってきてるってことは、今までのやり方で合ってるってことですか?
確定申告して税務署に提出するっていうのは、あくまでいったん受理して処理を行うってだけの話。だから、申告内容が正しいかどうかの話とはまた別なんだ。
そうなんですか!?
じゃ、還付金が振り込まれたから安心ってわけじゃないんですね。
過去の内容を遡って、「直近3年間の売り上げ台帳見せてください」とか、「領収書を見せてください」っていうお尋ねが税務署から来るケースもあるよ。
コワイ!コワイーッ!!
でも、3年後にどんな間違いを指摘されるんですか?
それは人によってさまざま。確定申告書を見て、例えば赤字が何年も続いてるとそもそも生活が成り立たないわけだから怪しまれることもあるし、外部からチクられるケースも。「あの人、変な取引してるらしいです」みたいな密告が、税務署に入ったりすることもあるね。
うん。年間所得が数百万レベルでも、簡易的なお尋ねをされることは大いにある。
とくにこのコロナ禍で、税務署の調査件数は減ったけど、簡易的な書類上の税務調査は実は増えているんだ。大物よりも小物にメスを入れるケースは増えてるね。
ひえぇええええ! 僕のような小物でもかよ。その「お尋ね」が来た場合に、備えておいたほうがいいものってありますか?
確定申告書の控えと申告内容の元になる書類。帳簿や領収書類は保管しておくことが基本だね。
何年分くらいストックしておかなきゃいけないんですか?
法律上はだいたい7年だね。まず問い合わせが来るのは3年分。そこで大きい指摘事項が見つかると残りも見せてください……となることも。
もし帳簿や領収書を紛失したり、破棄してしまってたら?
その場合は、保存しなきゃいけないルールを満たしてないから、その経費が認められないこともあるし、概算で金額を決めることもケースとしてはあるよ。
大抵の場合、税務署は間違いを探しているわけで、悪い人を捕まえようとしているわけじゃない。
でも、追加納税になると10%の加算税があったり、3年前に払わなきゃいけないものを今払うことになるので、その分の延滞税という利息が発生することもあるよ。内容が悪質であれば、最大40%もペナルティが課税されることもあるから気をつけて!
とはいえ、人間がやっていることだからミスはしょうがない。万が一、税務署から問い合わせが来た際に備えて、書類関係は少なくとも7年間保存しておくことだね。
相談【3】どのタイミングで青色申告にすべき?
僕、ずっと白色申告なんですけど、青色申告にした方がいいんでしょうか? 切り替えるタイミングがわからなくって。
はっきり言って、白色でいることのメリットって全くないと思うよ。
青色申告のメリットの1つが、赤字を3年間繰り越せること。
例えば、今年の赤字がマイナス10万円だとして、翌年の利益が100万円だった場合、去年の赤字を使って90万円まで利益を減らせるんだ。
さらに青色申告には「特別控除」っていうのがあって、きちんと青色申告書を作って電子申告すれば、65万円を自動的に経費にできるんだ。
さっきの例だと、90万円から65万円引いて25万円の利益になる。100万円を25万円に圧縮できるって、かなり大きいよね。
メリット尽くしじゃないですか。なんでもっと早く青色にしなかったんだろうと激しく後悔……。
ちなみに、青色と白色では申請の仕方は変わるんですか?
白色の場合は収支の申請が家計簿的なものでも大丈夫だけど、青色の場合は複式簿記という専門的な帳簿をつけなきゃいけない。その代わり、きちんと帳簿を作ってくれた人には、特典として65万円を利益から引いてあげるよってこと。面倒くさい作業をやったご褒美みたいなものだね。
65万円の控除は超魅力的だけど、きちんと帳簿を作れる自信ないです(涙目)。
今は会計ソフトが進歩しているから、簿記の専門知識がなくても売上や費目を打ち込むだけで青色申告用の帳簿を作れるよ。
それに、平成26年から白色申告の人もちゃんと帳簿を作ることが義務づけられたんだ。どのみち結局帳簿をつけるなら、青色申告の方が特典受けられてお得だよね。
チップスくんが教える「青色申告」のメリット
- 最大65万円の特別控除が受けらえる
- 赤字を3年繰り越せる
- 減価償却の特例が使える
……固定資産などの取得金額が30万円未満であれば、取得した年に一括で経費に計上できること。 - 青色事業専従者給与を必要経費にできる
…配偶者や親族に支払った「青色事業専従者給与」を必要経費として所得から控除可能になる。
水を差すようで悪いけど、
青色申告したい場合はその年の3月15日までに税務署で「青色申告承認申請書」という届出を提出しなきゃいけないんだ。だから、今年の3月15日までに行う確定申告を青色でするには、昨年の3月15日までに申請しなくちゃいけなかったんだよ。
ってことは、僕は今回も白色ということですか……。
チッキショー!!! !!
チャンチャカチャンチャン♪っておい!
でも、次こそは青色申告に切り替えますから!!!
ところで、みくのしんさんは将来的にはフリーランスになる予定なの?
う〜ん。まだちょっとわかんないです。もしフリーランスになったら、今と何が変わりますか?
確定申告することは変わらないけど、会社員としての収入を合算することがなくなって事業所得だけになる。税金に関してはそのくらいかな。
大きく変わるのは、保険と年金。今は会社の社会保険と厚生年金に加入しているけど、個人事業主になると国民健康保険と国民年金にグレードダウンするイメージ。厚生年金の二階建て部分がなくなるから、将来もらえる年金額が減るんだ。あとは雇用保険もなくなるから、失業手当とかも受けられなくなるね。
そうだね。だから、フリーランスになるなら将来に向けていろいろと手を打っておいたほうがいいね。
【おまけ】噂の「インボイス制度」って何? 副業の人にもデメリットになりますか?
これで確定申告の疑問や不安は拭えたよね! じゃ、まったねー、バイバ〜イ!
最近もう1つ気になっていることがあって。
選挙のときにTwitterで賑わってた「インボイス制度」ってやつなんですけど。フリーランスの友人が「仕事がなくなる!」って騒いでいたんですけど、これ本当ですか?
基本的なイメージは合ってるね。「インボイス制度」って、要は消費税の話。基本的にモノを買った時に消費税を払ってるけど、それってお店に払ってて国に払ってるわけじゃないよね。で、お店も仕入れとかで消費税を払ってるから、そこで実際の金額に差額が生まれる。その差額を確定申告のときに国に計算して納税する、という仕組みになってるんだ。
ただ、年間の事業所得が1千万円未満の人は消費税を払わなくていい「免税事業者」に該当する場合も。そういう免税事業者は、本来差額として生まれた払うべき消費税を自分の懐に入れられていたんだ。
それって、「益税」と言って税金で得してるわけ。だから、そこを国としては請求したいから「インボイス制度」ができたんだ。
これって、副業している僕にどんな影響があるんでしょうか?
これまで副業の原稿料に、消費税もプラスされて支払われていたよね? それは変わらないんだけど、発注先にしてみたら同じ金額払うんだったら、免税事業者のみくのしんさんより、課税事業者にお金を払いたいよね。
んんん? どういうことですか?? 僕、コンビニやスーパーで買い物するとき消費税払ってますよ。
いや、そういう話じゃないんだ(笑)。
例えば、仮に僕が本を作って10万円売り上げたら消費税が1万円加算されるよね。このままだと、1万円を税務署に収めなきゃいけない。でも、その本を作るために、デザイナーに本の装丁を3万円で発注して、僕がデザイナーに税込3万3千円を払っていたとする。その場合、売り上げで受け取った消費税1万円から発注で支払った消費税3千円を引いて、差し引きで7千円を納税するというのが、本来の消費税の仕組みでしょ。
これがインボイス制度が適応されると、そのデザイナーが免税事業者だと僕は税込3万3千円払っているのに1万円から3千円を引けなくて、1万円の国に納税することになっちゃう。だったら、同じ金額で依頼できる課税事業者のデザイナーに発注したくなるよね。そうすれば、僕の消費税の納税額は7千円になるわけだから。
はいはいはい。
だから、僕ら免税事業者の仕事が減る可能性が高いってことになるんですね。
でも、年収1千万円以上稼ぐのはちょっと……。やる気はあるんですが、なかなか厳しいっす。
年収1千万円に届かなくても、課税事業者になる方法はあるよ。インボイス制度に対応するためには、税務署で「適格請求書発行事業者」の登録をする必要があり、そのためには「消費税課税事業者選択届出書」も提出しなければならない。
でも、2023年3月31日までに登録申請すれば、「消費税課税事業者選択届出書」の提出は省略できるよ。
「インボイス制度」導入の注意事項
- 「インボイス制度」の対象者は、「適格請求書発行事業者」に限る。
- 「適格請求書事業者」になるには、税務署長に登録申請書を提出し、登録を受けなければならない。
- 免税事業者は登録ができないため、課税事業者になる必要がる。
- インボイス制度が始まる2023年10月1日から登録を受けるには、 同年3月31日までに登録申請書を提出しなければならない。
インボイス制度が始まる前に、登録しといたほうがいいのかなぁ。
職業にもよるし、代えのきかない人とか少額の仕事であればそこまで影響がない可能性はあるよね。
あと、消費税分を発注費から値引きするってことも起こりうる。でも、下請け叩きにならないように、インボイス制度には経過措置を設けられているんだ。
2023年10月から適応されるけど、インボイスに対応していない事業者の仕入れでも、2023年からの3年間は80%、2026年からの3年間は50%の仕入税額控除がそれぞれ受けられるようになっているよ。微妙なルールではあるけどね。
これって確定なんですか? 僕たちが今からあがいても、どうにもならない??
施行が延びたり覆されたりする可能性はあるかもだけど、これはもう選挙に行くしかないね。
あちゃ〜。この間の選挙は、そういう意味でも大事だったんですね。
ともあれ、副業している人にも無視できない問題! 知らないほうがよかったような、複雑な気分ですわ……。
まぁ、いずれ直面する事柄だから、今のうちに理解しておいて損はないよ。
そうですね。今日は確定申告の謎や、不安に思ってたお金の話が聞けてスッキリしました。今回の確定申告は自信を持って取り組めそうです!
それならよかった! お金の悩みがあったら、またいつでも来てね。
じゃ明日また来ますわ。チップスくん、今日はありがとうございました!
撮影/武石早代
取材・文/坂井あやの