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税理士・山内真理×新米社長の華麗なる決算への道【11】成功に不可欠なロードマップ「中期経営計画」を策定しよう

税理士・山内真理×新米社長の華麗なる決算への道【11】成功に不可欠なロードマップ「中期経営計画」を策定しよう

昨年起業した新米社長の成田龍矢さんが1年間に渡り、税理士の山内真理先生から経営アドバイスを授かるこの連載。今回は、会社の成長に欠かせない「中期経営計画」の策定について。 中期経営計画のメリットや策定するうえでのポイントを山内先生がわかりやすくレクチャーしてくれました。

初決算で税理士のありがたさを実感する成田さん

決算の話となり、急に襟を正す成田さん(社長の風格?)
山内先生
成田さんの会社「LON」は3月決算で、5月が税務申告でしたよね。今(取材時4月)、ちょうどお忙しい時期ですか?
成田
さん
そうですね。でも正直、税理士さんと経理の方に任せっぱなしで(苦笑)。税理士さんからは「7割終わっている」と。最後に僕が細かい金額を全部確認したら終わりなはずです。印鑑を押すとかもないし、意外とスムーズに進んでいて驚いています。
山内先生
昔は書類に社長が印鑑を押していましたが、今は国税電子申告・納税システムの「e-tax」による電子申告が主流ですからね。あらかじめ事業者側のe-Taxで利用者識別番号を取得して、税理士の利用者識別番号と紐づければ、税理士が代理で電子的に申告書を提出することができます。もちろんアナログな方法での申告も行えないわけではないですが。
成田
さん
ほんと、決算は税理士さんにはお世話になりっぱなしで。感謝しています!

本日のレジュメ

  • 中期経営計画を策定する意味
  • 投資家から出資を受けるなら中期経営計画の策定は必須!?
  • 中期経営計画策定は、現状分析をもとに戦略を考えるのがコツ

【POINT 01】“中期経営計画は、成功に不可欠なロードマップです”

そもそも中期経営計画って? 今回も山内先生がわかりやすく解説します!
山内先生
成田さんは「中期経営計画」、略して「中計」を知っていますか?
成田
さん
ええっと、ほんのりと(笑)。中期的な計画を立てましょうってことですよね!
山内先生
ざっくりですね(笑)。この場合、短期は1年ですが、長期は何年だと思います?
成田
さん
えーっと、5〜10年ですかね。
山内先生
ふふふ、けっこう幅のある回答ですね。長期は10年くらいで、一般には、短期と長期の間の3〜5年を中期だと考えますね。
成田
さん
なるほど。理解しました!!
山内先生
成田さんのおっしゃる通り、中計は「経営するために中期的な計画を立てること」なのですが、なぜ中計を作成する必要があるのかを考えてみましょう。

会社として大きな目標を立てたとき、その目標値と現在値にはギャップが起きやすいもの。そのギャップを埋めるには、時間をかけてさまざまな施策を立て、それらをブレイクダウン(細分化)させる必要があります。
成田
さん
たしかに。
山内先生
「目標に向かって頑張るぞ!」とただ漠然と経営していては、長期的な目標までたどり着かないことが多いんです。そこで、長期的な目標を達成するために必要な数々の施策を整理したロードマップが中計なんです。
成田
さん
ほうほう。ロードマップと言われるとわかりやすいですね。
山内先生
たとえば、スタートアップが新たな市場で新サービスをリリースする場合、1年で成果を出すのは時に難しいもの。成果を出すためには、雇用や開発、マーケティング、PRなど、いろいろなことに投資する必要があります。緻密な計画を立てないと、ただ何となく投資するとお金が出ていくばかりで成果が出ないということも。
成田
さん
そう思うと、無計画って怖いなぁ……。
「資金繰りには困っていませんが、経営者として中計の必要性は知っておきたいです」と、成田さん
山内先生
そのため、事業を成功させて数年のうちに赤字決算を黒字化したり、黒字幅をさらに大きくしてスケールしていくためにも、中計を立てることが重要になります。中計は経営者にとって大きなメリットがあるんですよ。
成田
さん
メリット??? 中計にますます興味が湧いてきました!
山内先生
中計で成功のシナリオを描けると、今やるべきことや優先順位が明確になります。経営において、直感的に優先度を判断すると個々がまとまりにくく非効率。会社という組織は、従業員が同じ方向を向いて1つの目標に進みながら、実行状況をモニタリングすることが大切です。そのためには目標を立てるだけでなく、ときどき振り返り、「ここまでは達成できた」「今はここに今力を入れよう」と確認する作業も忘れないようにしましょう。

【POINT 02】“中期経営計画は、投資家への「説明材料」にもなります”

この連載も残すところあと2回。取材は写真の通り、終始和やかな雰囲気で進んでいます
成田
さん
やっぱり、中計は起業1年目から作成した方がいいんですか?
山内先生
それは会社が何を目指すかによりますね。「自分が食べていければ十分」というひとり社長なら、単年度の経営計画だけでも経営的に問題ないというケースもあります。その場合は、1期目の経営計画をもとに2期目、3期目と考えていくといいでしょう。
成田
さん
バリバリ稼いだり、事業で一発当てたいなら、中計の作成が必要ということですね!
そうとも言えますね。たとえば、ハイリスクハイリターンなマーケットで、潜在的なニーズが高いであろうビジネスに挑戦するときには、多額の資金が必要になります。自己資金が多額にあれば問題ないですが、投資家などから調達する場合、「このビジネスは絶対当たるから1億円出資して」と根拠なく言い放ったとしてもも、そっぽを向かれてしまいますよね。
成田
さん
それじゃあ詐欺みたいですね。
山内先生
「なぜ1億円必要なの?」「その出資はいつ回収できるの?」という出資者の疑問に答えるためには説明材料がいるわけです。実績をはじめ、目標値にたどり着くまでに必要な人やモノにかかる費用、開発コスト、広告宣伝費を出し、確実に成果が上がるような見込みのあるマーケットに対して効果的なチャレンジするのだ、と示す必要があります。

成功というエンディングに向かったシナリオを形にすれば、出資者に「これは勝ち筋だ」と納得してもらえる可能性は高くなります。中計は経営者が成功するためのロードマップであり、投資家などの第三者への支援や協力を求めるための説明材料でもあります。
成田
さん
重要度がよくわかりました!

僕はまだ投資家などから投資を受けることは考えていませんが、この先検討することもなきにしもあらずといった感じです。
山内先生
成田さんの会社のように、受託や請負の仕事で、ある程度収益が予測できるビジネスなら、自己資本から会社の規模を大きくすることも可能かと思います。

ただ、「30億円規模の会社にしたい」とか「革新的なサービスを作りたい」といったときに出資を検討することもあるかもしれませんね。
成田
さん
う〜ん。まだわかりませんが、否定はしません(笑)!
山内先生
たとえば、アプリ開発などのSaaS型サービスを始める場合、まずはベータ版を開発・リリースし、市場の動向を見ながらさらに開発を続け、課金モデルを作るといった流れがあり、初期の開発コストが数千万円から数億円かかる場合もあります。しかも、投資したお金をすぐに回収できるかといったら難しい。そのために外部資金が必要になるんです。
成田
さん
ちなみに銀行から融資を受けるときも中計を作成しておくと有利になりますか?
山内先生
そもそも融資は株式投資とは性質が違います。投資家は今は赤字でも3〜10年先に黒字を生む可能性が高いなど、トータルでハイリスクでもリターンが大きい会社に投資します。

一方、銀行は財務状態が悪かったり、業績が赤字の会社に対してはシビア。ただ、実績だけでなく、会社の将来性ももちろん評価軸になります。だから、実績の評価だけでは獲得できない金額を借りたり、返済可能性をしっかり示すうえで、短期・中期の経営計画をセットで出すことも有効だと言えますね。実際に既に実行済みの施策で足元で効果が出ていることを裏付ける財務的な数値を示すことで、より大きな枠を取れる余地もあるかもしれません。

ただ、中計はどちらかというとファンドや事業会社、エンジェル投資家向けなどに投資の合理性の判断材料となる説得材料として、より有益であると認識しておいてください。
成田
さん
はい、わかりました!

【POINT 03】“内部・外部の現状を分析し、目標達成のための戦略を立てましょう”

中計作成のポイントを教わります
成田
さん
中計を作成するためには、まず何をやったらいいんでしょうか?
山内先生
まずは現状分析からです。目標達成までに足りないこと……たとえば、NFT(所有証明書つきのデジタルデータ)によるビジネスモデルの場合、NFT開発ができる人材は今多くの企業で不足していて、人件費として比較的大きな予算の確保が必要と言われています。そういった内部的な組織における必要リソースや現状の課題をまずはあぶり出す必要があります。
成田
さん
なるほど。
山内先生
あと内部だけでなく、外部環境の情報収集や分析も必要になります。この先、潜在的に市場が拡大すると見えていなければ、投資してビジネスをしても当たる確率は低いですから。例えば、シンクタンクなどのさまざまな調査機関のデータや、独自のリサーチ結果をもとに、消費者のニーズの高さ、時代や生活様式の変化によってニーズがさらに大きくなる可能性などを分析します。

また、競合他社の数と実績も把握を。「競合がいても高品質のサービスは市場にないから、パイを取るチャンスがある」とわかれば、自分たちがうまくポジショニングすれば、結果が出せるという見通しを立てられる余地が生まれます。
成田
さん
内部と外部の環境の分析が大事なんですね。
山内先生
資金調達をする・しないに関わらず、新たなビジネスやサービスを作って育てるときは中計を立てた方が、成功の確率は高まるでしょう。そのビジネスが勝ち筋だという合理性を証明し、そこに対して必要な人材や商品、組織における戦略を見出して組み立てると、有望なビジネスモデルを導き出すことができます。
成田
さん
ただ、新米経営者にとっては実行するハードルが少し高い気も……。
山内先生
そうですよね。とくに創業間もない頃は、外部環境の情報が揃っていないことが多い場合も。そのため、経営しながら、中計の解像度を高めていくのがいいと思います。市場と向き合い、試行錯誤するなかで、本当のニーズが見えてくることも多い。そのニーズに寄り添いながら、計画を改良していくことが大事です。

また、計画を実行するためにやるべきことが100あったとして、すべてを同時にスタートさせるのは資金的にも内部リソース的にも不可能ですよね。だから、何が最も重要かを見定め、優先順位や施策を考えて、「何年何月に行う」「初年度はここまでやる」といった計画を立てます。売上、人員の採用や教育、開発といった計画を数値化するとやるべきことが散漫にならずに、組織が一丸となって進みやすくなります。
成田
さん
中計は、経営者が1人で考えるべきですか?
山内先生
優先順位を明確に整理するためにも、経営者自身が中計の策定に関わることが肝心です。

ただ、経営者が1人で作るよりは、できれば役員や幹部候補、主力メンバーなども巻き込んで考えた方がいいと思います。なぜなら、経営者は思い入れが強いから中計にコミットできても、ほかのメンバーは自分ごとと感じられず、ついて来られないということもありますから……。
成田
さん
社内の知恵を集めつつ、みんなで実現可能な計画を立てた方がいいんですね。
山内先生
補助金の申請をする際にも、中期的な計画の策定は重要なポイントになります。そうした意味合いでの計画策定について外部の専門家に相談したいときは、「認定支援機関(認定経営革新等支援機関)」を活用するのも一つの手。

弊所(公認会計士山内真理事務所)もその1つですが、税理士や公認会計士、商工会など、国の指定を受けた認定支援機関を経済産業省のWEBサイトで検索できます。認定支援機関に相談しながら二人三脚で中計をイチから作ることで、先の見通しを立てたうえで、事業の成功確率を上げるとともに、補助金の獲得確率を上げることもできます。
成田
さん
専門家の協力があると心強いですね!
山内先生
また、中計策定の際、中小企業基盤整備機構が開発した経営計画を作成できるアプリ「経営計画つくるくん」といったツールを活用する方法も。ネットに経営計画書の無料テンプレートがいろいろありますので、検索してみるのもおすすめです。

山内先生が教える!中計作成のポイント

  • 組織内部の課題を把握する
  • 外部環境の情報収集や分析を行い、競合他社の実績を把握する
  • 売上や採用、教育、開発といった計画を数値化する
  • 経営者自身が中心となって中計の策定に関わる
  • 補助金の申請時などには認定機関など外部の専門家に頼るのもOK
成田
さん
最後に、短期経営計画を作成する際のポイントも教えてください!
山内先生
短期経営計画、つまり単年度の計画は黒字経営を持続可能にするために、どうやって売上を立て、必要な利益を確保するかを第一に考えます。売上獲得のほか、原価率や、各種固定費などをコントロールして、損益分岐ラインを超えて、組織を安定させたり、成長させるための、単年度の戦略を考えることになります。

その辺りを税理士や会計事務所がフォローしながら、経営者と一緒に短期経営計画を策定することも多いかと思います。
成田
さん
大変よくわかりました! 今後は僕も税理士さんに相談したいと思います。
山内先生
また、小規模な会社の場合は役員報酬の額を決めるときにも短期の利益計画が重要な役割を果たします。原則、役員報酬を税務上マイナス項目(損金)として扱えますが、役員報酬を高くすれば法人税を節税できる一方、少なくすると法人税は高くなる。とりわけ小規模法人では役員個人のお財布と会社のお財布の両方の負担を考慮して、役員報酬を最適化するために、期首の段階でむこう一年の利益計画を予測・参照することも多いです。

役員報酬の変更は原則一度のみ。成田さんの会社は、3月決算ですから期首から3か月以内の4〜6月中に役員報酬を一度だけ改定ができ、そこから1年間は基本的に月額固定となります。2期目に向けては改定するご予定ですか?
成田
さん
僕は役員報酬を改定しようと思っています(ニヤリ)。
山内先生
その顔は……もしやアップですか?
成田
さん
その通り、アップです!!! 
山内先生
すばらしい。成田さんの1年間の経営の成果については、次の最終回のお楽しみにしておきますね。
成田
さん
はい、次回もよろしくお願いします(ニヤニヤニヤ)!!!
2期目は役員報酬をアップ予定の成田さん。ニヤニヤが止まりません

……ということで、次回はとうとう最終回。果たして成田さんは経営者として成長したのでしょうか。最終回は、経営1年目のリアルと会社の成長のために必要な経営アドバイスをお届けします!

山内真理(やまうち まり)

公認会計士・税理士。1980年生まれ。一橋大学経済学部卒業後、有限責任監査法人「トーマツ」を経て、2011年にアートやカルチャーを専門領域とする「公認会計士山内真理事務所」を設立。豊かな文化の醸成と経済活動は裏表一体、不可分なものと考え、会計・税務・財務等の専門性を生かした経営支援を通じ、文化・芸術や創造的活動を下支えするとともに、文化経営の担い手と並走するペースメーカー兼アクセラレータとなることを目指す。芸術文化活動に関わる人に法律的側面から支援を行う非営利の活動団体「Arts and Law」の理事、特定非営利活動法人「東京フィルメックス実行委員会」理事、東京芸術祭監事ほか。
 
公認会計士山内真理事務所/株式会社THNKアドバイザリー:https://yamauchicpa.jp/

成田龍矢(なりた りゅうや)

1994年生まれ。大学卒業後、人材事業会社に入社。スポーツ領域の人材事業やスポーツイベントや興行支援に従事。その後、大阪のクリエイティブ系のスタートアップ企業に転職。東京支社を設立し、ウェブ制作事業の営業やディレクターとして活動。2019年、独立してフリーランスのプロデューサーに。2021年4月、自身の会社「LON」を設立。

撮影/武石早代 
取材・文/川端美穂(きいろ舎)

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