「PM」って一体どんな仕事?“こだわり”と“納期”の狭間で奮闘する3人のリアルな声
「おかねチップス」が、「クリエイター支援メディア BRIK」と共同で行っている公開収録オンラインイベント『ジョブクロッシング -仕事と職の交差点-』。同じ名前の職種でも、業界や業態の違いにより、大きく役割が異なるもの。その役割の違いを正しく理解することで、それぞれに必要なスキル、仕事における考え方やこだわりをひもといていく、クロストーク対談企画です。
全四回のうち、今回は第三回の模様をお届け。テーマは『「PM」がマネージメントする「モノ」の正体!?』。いずれも「PM」と略される、「プロダクションマネージャー」「プロジェクトマネージャー」「プロダクトマネージャー」の3名による、仕事のリアルな今を切り取ったクロストーク対談となっています。登壇してくれたのは、株式会社ピクス 比嘉り子さん、株式会社ソーシャルインテリア 吉種伸彰さん、株式会社 D2C ID 三谷耕平さんです。
<登壇者>
比嘉り子氏
早稲田大学社会科学部卒業後、2016年にPICSに入社。TVアニメ「スペースバグ」、日本テレビ「卒業バカメンタリー」「簡単なお仕事です。に応募してみた」、WOWOW「スーパーチューナー/異能機関」の制作に関わる。近年ではNHK「岸辺露伴は動かない」シリーズを担当し、今年5月に映画「岸辺露伴 ルーヴルへ行く」の公開を控える。入社以来オリジナルコンテンツの制作に取り組んでおり、今年は原作開発に参加したプロジェクト「ブルバスター」がTVアニメとして放送される。休日は旅行と観劇に費やす。
https://www.pics.tokyo/
吉種伸彰氏
同志社大学を卒業後、新卒で株式会社ビッグツリーテクノロジー&コンサルティングに入社。SaaSの開発・運用プロジェクトにアサイン。5年間で実装〜開発ディレクションまで関わる。最年少最速でシニアコンサルタントまで昇進。2021年3月にソーシャルインテリア入社。初のエンジニア出身の社員として開発全般に関わる。趣味はオーケストラ(ホルン)、自作パソコン(ゲーム)、読書。
https://corp.socialinterior.com/
三谷耕平氏
1982年生まれ。大学卒業後、音楽系の小売業に入社して自社ECサイトの運用を担当。その後、数回の転職を経てガラケーの課金コンテンツやスマホアプリなどの制作ディレクション、そしてWebサイト制作ディレクションへとシフト。現在はディレクターとして、コーポレートサイトのリニューアルやサービスサイトの新規立ち上げなど、BtoB向けを中心としたウェブサイト制作を多く担当。案件の立ち上げ前後の与件整理やタスク化を通じて、プロジェクトマネージャーのような立ち位置で「どの方向性で進めていくのか」を決めることを得意としている。
https://www.d2cid.co.jp/
「広く、浅く」の知識が役に立つ職種
ーーまず最初に語ってもらうテーマは「今の役職に必要なスキルとこだわり」。吉種さんの回答から見ていくと、「T字スキルとバランス」とのことですが、これはどういった意味なのでしょうか。
吉種さん:どんなPMも、マーケティング、営業、運用保守とか、いろんな分野の方と接していくと思うんですけども、自分自身は1個専門性を持って、その上でいろんな広い分野の知識を広く浅く身につける、いわゆる「T字」の形のようにしましょうという意味です。それが、バランス感覚というところにつながっていくのですが、例えば営業の言う通りに開発すると「絶対性能落ちちゃう」ってなるし、マーケの言う通りにすると「機能増やしすぎ」と偏りが生まれてしまう。僕は以前エンジニアをやっていたという専門性があったので、他の人たちの意見をバランス良く吸い上げ、着地させることができています。
ーー三谷さんは「完璧を目指しすぎない。けどプロジェクトの成功を目指す」と書いていただきました。
三谷さん:ちょっと言い方は悪いんですけど、“ずらせる納期とずらせない納期”ってあると思うんですよね。スケジュールが遅延した場合にどういう対応を取れるのか。納期にそこまで強い理由が無い場合は、納期を調整した上でトラブルにも対処するという方法が取れます。逆に、納期が最優先の場合は「他の対応を優先して、こっちは妥協しましょう」みたいな調整力が必要になってくる。皆さんも心当たりがあると思うんですけど、なかなか100点で完成させるっていうのは難しいんですよね。いろいろ反省点だったり、トラブルとかっていうのがつきもの。当初の計画に意固地になりすぎると、ほかの工程にかえって悪影響を与えてしまいますので、あくまで「プロジェクトの成功」っていうところにフォーカスして、状況を見つつ、柔軟に進めていくっていうのが大事なのかなと思っております。
ーーでは比嘉さんお願いします。「安定感」ということですが。
比嘉さん:二人のお話を聞いていて、「これがPMに必要なスキルなんだ」と納得してしまったんですけど(笑)。私の考える「安定感」は、ディレクターはこう言ってるけどクライアントはこう言ってる、カメラはこう言ってるけど照明はこう言ってるとか、制作に関わる色んな人達の意見のバランスを取るということです。また、クリエイターの人たちの中には、連絡がつかなくなったりとか、時間通りに来ないとか、社会の常識とは逸脱したところがあります。そうした状況でも、どっしりしていられるかみたいな「メンタルの安定感」もPMにとっては必要だと思っています。
「こだわり」は必要以上に持たない
ーー2つ目のテーマに入ります。「自分以外の二人に聞きたいことは?」ということで、まずは三谷さんからお願いします。
三谷さん:僕は吉種さんに聞きたいのですが「意思決定大変じゃないですか?」。僕は今までクライアントワークをしていて、自社のプロダクトとかサービスを扱った経験が無いのでわからないのですが、吉種さんのような自社サービスの場合、従来とはまた違った苦労というか、社内のパワーバランス調整に奔走する……みたいなことがあったりしそうで、どういう対応をされているのかなと。
吉種さん:多分、意思決定が大変なときって、大抵は部署間というか、「うちとしてはこうしたい」「いや、うちとしてはこうしたいんだ」っていう、利害関係が含まれていると思うんですね。そんなときは、「当初決めていた目標に近いのはどっちの考え方なんだっけ?」っていうのを確かめる。そして、経営陣には「これこれこういう状況なんです。力添えください」と、みんなで同じ方向を向かせる。ゴールが明確なほど、イニシアチブを取りやすいと思います。
ーー比嘉さんも、自社コンテンツを手掛けていらっしゃいますし、並行してプロジェクトを進めていたりとか、意思決定する機会が多いように思います。
比嘉さん:クライアントワークはすでに座組が決まっていて、担当しているものだとジャニーズJr.の方の深夜ドラマがあるんですが、見て欲しい方も決まっているので、意思決定する機会はそう多くはありません。ただオリジナルコンテンツだと、見てほしい方含め展開も決まってない状態。どうしたらヒットするか、中々予想できないんですが、結論として「好きなもの」を作るしかなくて。自分たちが好きなものを、多くの人に好きになってもらえるようプロデュースしていくかみたいなところを軸に決めていっています。
ーーありがとうございます。続いては比嘉さんのご質問に参りたいと思います。「何でこの仕事を選びましたか?」ということで、吉種さんからご回答お願いします。
吉種さん:元々パソコンが好きだったので、「開発をやりたいな」っていう思いは新卒のときから持っていたんですね。その後エンジニアになって、“いかに納期通りに、そして綺麗に作るか”みたいなことを日々考えていたんですが、段々と「そもそもこれって作る必要があるのかな」とか「こう作ったらもっといいのに」みたいな思いが生まれてきまして。より上流から、そしてさまざまな事業に携わりたいというところで、プロダクトマネージャーを志望しました。
三谷さん:僕は成り行きでこのポジションについたタイプです。以前の会社でコンテンツ制作をやっていたとき、「窓口」みたいなポジションで、クライアントに言われた内容を右から左に流すだけみたいな感じだったんですが、実はその仕事が世間一般では「ディレクター」と呼ばれるものだと気づいて。「じゃあディレクターとしてもっとバリューを出せるようにしないといかんな」と思って、いろいろやってきた結果、今に至るっていう感じですね。
ーーちなみに、質問していただいた比嘉さんはどうしてこの仕事を選ばれたんですか。
比嘉さん:子どものころにテレビでドラマを見ていて、エンドクレジットに載ってる俳優さん以外の人たちって何やってるんだろうって、興味を持ったのがきっかけですね。学生になっていろいろアルバイトしたりして、さらにいろんな裏方さんがいるんだなっていうのを知って、「自分はこういう仕事が向いてるかな」っていう感じで、スタートさせました。今回、お二人のプロフィールなどを事前に拝見して、「どういうことをやっているんだろう」って、よくそのお仕事の存在に気づいたなと思ってこういった質問をさせていただきました。
ーーちなみに比嘉さんは、就職されるときに地元の市役所か今の会社か迷ったそうですね。
比嘉さん:よく調べましたね(笑)。エンタメを見る方か、作る方でいるか、ずっと悩んでいたんですが、ちょうどその時インド映画の『きっと、うまくいく』を見て、「今挑戦しないでどうするんだ」と思って仕事にしました。もちろん、今の仕事が一番やりたいことなんですけど、「休みたいな」とか、「今日仕事行きたくないな」って後ろ向きになることがたまにあるんですよ。いまだに好きを仕事にしたのが正解なのか、考えることはあります。
ーーお二人もすごく大きくうなずいていらっしゃいますが、何か共感するところが?
吉種さん:うちの会社がいわゆるスタートアップベンチャー企業で、どんどん資金調達して新規事業をやっていこうって会社なんですけど、そこには想像を超える大変なことがあって、自分も新しいことをやりたくて入ったけど、まだ覚悟が足りなかったんじゃないかとか、実力不足なんじゃないかとか、何十回も思っているのでその気持ちはよくわかりますね。
ーーそんな吉種さんは「こだわりのぶつかりどうしてる?」ということですが。
吉種さん:お二方ともクリエイティブな領域のお仕事をされていて、クライアント、そして納期が当たり前に存在する中で、“こだわり”を持つとぶつかることがあると思うんですけど、メンタル含めどうやってバランスをとってるのかなと。
三谷さん:そうですね、どうしたらいいんでしょうね(笑)。プロジェクトマネージャーとしては、「本当にそれがこだわるべきポイントなのか」に注視しています。こだわっても効果はあまり見込めなかったり、自己満足的なものになっていたら折れてもらう。逆にこだわりがプラスになるのであれば、僕が一緒になって他の人を説得していくみたいなケースもありますね。本当に状況次第なので、「こだわりを持つ・持たない」という考え方自体をしないようにはしています。
比嘉さん:予算を管理しているプロデューサー&PMと、そうではないクリエイター同士でぶつかることは結構ありますね。いい作品を作るためには予算が必要なんですが、そうできないときは、わかっていても対立側に回って説得しなければなりません。
プライベートでも「PM」の心得を持つ
ーー最後、3つ目のテーマは「今の仕事の拡張性とポテンシャル」についてです。比嘉さん、「危険です!」と書いてくれましたが、これは一体……?
比嘉さん:お二人のようなWeb的なことって、今まさに広がりつつあるジャンルなんですけど、それに比べると映像の分野って比較的オールドメディアというか、拡張性は乏しいところなのかなと……そういった意味で危機感は覚えています。それに、技術の進化をうまく利用して、いま個人レベルでいろいろと出来る人も増えてきて、これまでのPMという存在が今後必要なのか、すごく試されているところですね。
ーー逆に吉種さんは「可能性大アリ!」そして「専門家」と書いていただきました。
吉種さん:一つ目の可能性ありっていうのは、今後プロダクトがどんどん生まれるにあたって、結局それをマネジメントする人が必要になってくるから、仕事の枠も増えていくのかなと思っています。一方で、PMは「やることが多すぎる問題」っていうのがありまして、マーケの知識も、営業のことも、運用のオペレーション設計のこともわからないと務まらない側面もあります。そんなスーパーマンみたいな人は、世の中にそういないので、強みに応じて役割分担が進んでいくんじゃないかなっていうふうには思ってますね。
ーーでは三谷さん、お願いします。「心構え的に何でも応用がきく」とのことですが。
三谷さん:プロジェクトマネジメントって、仕事以外でも、例えば「旅行の計画を立てる」とかでも応用できますし、用いられる場面は幅広いのかなと思っています。だからこそ、普段から何かをする上でプロジェクトマネジメントの考え方や、やり方を身につけておくと、人生損しないんじゃないかなと。
ーー吉種さんがおっしゃっていたように、可能性の広がりが相当大きい職種であることがわかってきました。最後に皆さんより、プロジェクトマネージャー志望の方にメッセージがありましたらお願いします。
三谷さん:今日見てくださった方は、何かしらマネジメントに興味がある方なのかなとは思うんですけど、仕事はもちろん、人生も楽しくなっていくみたいなところがあるのがPMなので、今後知ってもらったり、興味をもってもらって、なんなら経験してもらえると嬉しいなと思っております。
吉種さん:PMは、想像していた通りの仕事っていうときと、中身が全然違うっていうとき、会社や扱うジャンルによって全然パターンが変わってくると思っています。それが面白さでもあるので、ぜひいろんな会社での景色を見て、知見を広げていただきたいです。
比嘉さん:さっきの拡張性とポテンシャルの質問の自分の答えもそうですけど、なんか自分は担当してる映像のことばかり考えていて、自分の仕事が何なのか客観視することがあまりなかったなと思って、私がPMの何かポテンシャルの話聞いてすごい励まされたんですけど(笑)、自分自身が持ってるスキルや課題っていうのを、今回の俯瞰して見るチャンスになりましたし、実はすごく“つぶしの利くスキル”を持ってるのがPMなんじゃないかと自信になっています。
※Vol.4の様子も近日公開いたします!
撮影/武石早代
文/ヒガシダシュンスケ
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