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りょかちの私を変えたお金のハナシ#05「私たちの欲望は、放っておいてもよく育つ」

りょかちの私を変えたお金のハナシ#05「私たちの欲望は、放っておいてもよく育つ」

昨年エッセイスト・ライターとして独立したりょかちさんが、“お金にまつわるエピソード”をお届けするこの連載。第5回目は、「欲望」についてのハナシ。

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突然あまりにも怪しい書き出しで恐縮だが、最近、漫画『HUNTER×HUNTER』の登場人物が念能力(戦闘を有利にする特殊能力)を操るように、自分の “欲望”を自由自在に操ろうと試みる「欲望コントロールゲーム」に励んでいる。

はじまりは、とある場所で世界の断食について聞いていたときである(やっぱり怪しさが拭えない気もする)。さまざまな国での断食の風習や歴史をいろいろと聞いたが、その中で語られた一節が妙に心に残った。

「断食というのはね、欲のコントロールにもなるんですよ。私たちの欲望は、気がつくと手に負えないほどに膨れ上がってしまう。それを断食を通して空腹に耐えることで、欲望を小さくして、自分で扱えるように抑えるんです」

顎髭をたっぷりたずさえて、両手をぶん回しながらおじさんが熱弁する姿は描写しようか迷うほどにやっぱり怪しかったが、確かにこの表現には合点がいった。というのも、私も去年の春、断食道場で一週間の断食を経験した時に、この「欲望を操作できるようになる感覚」を手に入れていたのだから。

断食道場で出会った「足りなくても死なない」という感覚

断食道場に行く前、すぐに浪費に走る私の “渇望” はいつもの如く膨れ上がっていた。

消費欲旺盛な私だが、それは食欲も同じ。お腹が空くとすぐに “お腹が空いている” という事実で頭が一杯になり、「どうしよう、お腹が空いて大変! 何か食べなきゃ!」と思ってしまっていたのだ。そういう時の食欲は “手に負えない”。

しかし、断食道場で、ひたすらぼーっとしたり、散歩したり、ぬるい温泉でゆっくり過ごしたりしながら、1週間も“常にお腹が空いている” 状態でいると、だんだん「お腹が空いても死なないもんだな〜」ということを理解してくるものなのである。実際、最初の半日は “お腹が空いた” “何か食べたい” という気持ちが永遠に頭を離れないのだけれど、その時期を過ぎると、むしろ頭は冴えるし身体は軽くなる。お腹いっぱい食べた後に眠くなりながら仕事をしているときよりも、よほど健康的で気持ちも前向きになった(怪しい勧誘ではない)。

人が幸せになる法則として、「足るを知る」という言葉をよく使うが、「足らないを知る」ということもとても大切なのではないだろうかと思う。いつもはすぐに逃げ出していた “足りていない” ことに辛抱して向き合ってみると、「案外足りていなくても死なないな〜」ということに気づいたりする。

不景気の時代に生まれ、すぐに「勝ち組」「負け組」というラベルを貼ろうとするトレンドを横目に育ってきたミレニアル世代としては、 “欠乏している” 状態への警戒心が恐ろしく高く、何かが “足りない” 感覚に陥ると、負け組になるまいとすぐ逃げ出したくなるのだが、実際に足りない状態に浸ってみると、それほど不快でなかったりする。むしろ、普段あれこれと自分の欲望に振り回されている自分のほうが異常だったのではないかと思えてくるくらいだ。

そんなことを考えながら、バスに揺られて家に帰った頃には、あんなに振り回されていた欲望をかきたてる頭の中の声は遠くなり、空腹に焦らず食事を楽しめる自分になっていたのである。

欲望は自ら管理するもの。「欲望コントロールゲーム」を習得する

断食を語るおじさんの発言からそんな経験を思い出し、はじめたのが「欲望コントロールゲーム」だ。私たちが誘惑され、気持ちを揺さぶられているのは食欲だけではない。断食した後の感覚を活用して、自分が持っている欲望も自分でコントロールしてみようと考えたのである。常に肥大化しようとする欲望を一旦リセットして客観視することで、自分でコントロールしようと努めてみる。

欲望をコントロールするにあたって、意識していることがふたつある。1つ目は、これまで話していた「欲望を伸び縮みさせること」だ。

お腹が空いている状態や予定のない週末、シンプルな1日やカジュアルな洋服など“ケ”と呼ばれる一瞬にも、楽しみを見つける。反対に、好きな食べ物でお腹が満ちたことや特別な一日、張り切って買った洋服など、“ハレの日”を思いっきり楽しむ。「なくても困らない」を感じると、「あると嬉しい」がより実感できる。それを両方 “きちんと” 感じられるように、自分の欲望を伸び縮みさせる。

私たちは、いろんな誘惑によって「もっと欲しい」「欠乏を埋めなければ」という気持ちにさせられている。 「自分らしく生きる!」 と張り切っていても、気づけば誰かが創り出した “理想” に引っ張られ、その中から本当の自分の要望を見つけ出すのは難しい。

だからこそ、時には思い切り欲望を抑えて、肥大化した欲望から離れる。そして、自分が今突き動かされようとしている欲望を一歩引いて見ることで、その欲望を自分で調節するイメージを持つ。ひっきりなしに欲望を拡張しようとする誘惑から離れることが大切だ。

そしてさらに、その方法の一つとして意識しているのが、「欲望を煽るモノたちの作戦を知る」ことである。

シズル感溢れるCMやクーポンなど、 “お金を使うこと=消費” を煽る表現は幅広く存在している。時には「コンプレックス広告」と呼ばれる、人の不安を煽って消費を募ろうとするものもある。

しかしそういった表現も、「作戦を練ってこちらの欲望を煽ろうとしている……」と考えると冷静になれる。電車に乗るときはある意味トレーニングだ。前後左右にびっしり貼られた車内広告は、あらゆる方法で私たちの消費を煽ってくる。

脱毛してなくても好きな人に好かれる方法はあるし、2つ買ったら1つ半額だとしても、2つは必要ない。そういった誘惑に打ち勝ち、表現の背景にある作戦を知るたびに、一つひとつ本当に自分の欲求を手繰り寄せることができる。私たちを誘惑しようとする作戦はいつも、感動するほどに巧みである。それはもう、読み解く面白さを感じるほどに。

永遠に欲望を掘り返される現代だからこそ、我々はハンターにならねばならぬ

欲望はお金になる。

だからこそ、私たちの欲望は常に狙われている。スマホの画面や交通広告、SNSの投稿など、四六時中「理想の姿になるための○○」や「大人気の○○」、「レビュー★5つの○○」を見せ続けられる現代においては、『HUNTER×HUNTER』の主人公のごとく、すぐにだだ漏れになりがちな欲望を手の上で転がせる範囲に抑えておけるよう、気を引き締めておかねばならない。

気が緩んでいると、どんどん欲望は煽り文句に引っ張られて大きく膨れ上がり、そして財布の紐も緩む。

あなたが今買おうとしているモノは、本当にあなたが欲しいと思っているものだろうか? あなたは今、どうしてそんなに高いアレがほしいのだろう。一つひとつ問い直してみると、突き当たるのは自分の気持ちではなく、他人の宣伝文句だったりする。

お金を本当に欲しい物のために使うためにも、誰にも惑わされていない豊かな生活を手にするためにも、現代に生きる私たちは、ハンターのごとく自分の欲望をコントロールする強い意志が必要なのだ。

“欲望にかられる”のではなく “欲望を調節する”。優秀な欲望の使い手になってこそ、誘惑多き現代で、自分が本当にほしい豊かさを手に入れることができると思うのである。

りょかち

1992年生まれ。京都府出身。神戸大学卒業。学生時代より、ライターとして各種ウェブメディアで執筆。「自撮ラー」を名乗り、話題に。現在では、若者やインターネット文化について幅広く執筆するほか、企業のコピーライティング制作なども行う。著書に『インカメ越しのネット世界』(幻冬舎)。朝日新聞、幻冬舎、宣伝会議(アドタイ)などで記事の連載も。

Twitter:https://twitter.com/ryokachii
note:https://note.com/ryokachii/

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